思考恐怖症
「……ん……」
何やら頭のほうを誰かに触られているような感覚がして、ボヤッと目を開ければ目に入ったのは狐面だった
寝ぼけている脳みそじゃいつものように避けたり逃げたりするといった判断ができずに、ボケっとしたまま大人しく撫でられておく
「おはよぉ」
「……ん」
「大丈夫ぅ?階段から落ちたって聞いたよぉ」
「……だいじょうぶ」
こんな風に誰にされたのは久しぶりで寝ぼけている俺は素直にそれを聴いている。
「ほんとはソレも一緒にもらってあげたいんだけど、誰かさんが怒っちゃうからぁ」
「……もらう?」
「そうだよぉ、れーじたんにある怪我を僕がもらうのぉ」
「……」
その言葉で一気に脳まで冷えた。もらう?つまり俺の怪我がそのままにアンタにいくのか?と言われた言葉を何度も繰り返して自分の中で確認する。
だめだ、そんなの。
「たりめーだボケ。んなことされるような可哀相な奴じゃねぇよ俺は」
そう言えば何も言わずにクスッと笑って肩を竦めるような動作をした。
まるでそんなじゃないとでも言いたげに。
「……どうしてさぁ、れーじたんはそんなに強く一人で立っていられるの?」
「……え?」
「……全部、見えちゃってるからさぁ。頑張るねぇって思って。あ、褒めてるよ?」
「そうじゃ、ない……」
そう暗示をかけているだけで実際はこんなにも脳と心がちぐはぐになるほど、弱っている。
それでも立っているのは、俺は立っていなければいけないから。
じゃないと、今までの何もかもが崩れるから。また俺が苦しくなるから
また、裏切られてしまうから。
だから、一人で立っている。誰の手も借りずに。
「……俺は、こうしてないと、弱くなるから……これ以上他人に漬け込まれたくない、これ以上苦しくなっても耐えれるように、強くいないと壊れるから。……アンタは?」
「え?」
「……なんで、そこまでして、人間に味方すんの。誰もきっと……いやなんでもない」
踏み込まないし踏み込ませないつもりが、あっさりと踏み込まれてしまったから、こっちも踏み込んでやろうと思ったけれど、やめた。
俺は馬鹿だから、日本神話の神とかやたら魚釣ってるとかしか知らないけど、それだけで調べれば出てくるのかもしれないけど、余計なことはしない。
それは引き換え条件で、俺も何もしないからアンタも何もしないでくれっていうただそれだけのことで。
「……それはねぇ、聞きたい?」
「いや、やっぱりいい。……聞いても、俺にはどうしようもないし、それはアンタも同じだろ」
お互い聞いても、何もしてあげることはできない。
本当はしてあげれることもあるのだと理解している。俺は知りたくないだけで。
知ってしまったらきっともう戻れなくなってしまう気がして。
傷を抉ってしまうような気がして。
「……いいから、もう、帰れよ。草薙とかに言っといてほしいんだよ。当分俺は教室には上がらない」
「……もーなんでさぁ?お嬢さんが困っちゃうでしょー」
「分かってる。でも俺は行かない」
助けてなんて言葉はもう言わないと決めたから、もう少しの間だけ俺は残っているこの痛みを忘れる作業をしなければいけない。
通行禁止のテープを俺の前に貼り付ける作業を。
誰も入れてはいけない俺だけが背負えばいい、だってこれは俺のこと。
いくら"いい人"でも、簡単に離れていくと知っているから、俺は最初から他人を入れないことにしてしまおう。
「もう少し、したら行くさ。俺だって、どこぞの脳なしじゃねぇよ」
多分こんなにこの人と話したのは初めてな気がする。
いつも俺がさっさと移動してたからだろうけど、今日は仕方なかった。寝ぼけてたし。
さぁ、今から俺は通行禁止にするために特に、この人から逃げなければ。
これ以上読ませはしない。
こんな醜い思考に囚われただけの本当の意味でゴミよりもクズよりも腐れた人間のことなんか、早く忘れて。
(俺のこの思考があるせいで、俺がこんなになったから……どこに行っても俺はXXれるの?
俺をこんな風にしたのは周りなのに、結局いつも底辺にいるのは俺なんだ)
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