一般人の少女は



「あ、あの待ってください!」


やれと言われたら案外あっさり納得できたもんで、俺はさっそく手始めにと、校内を探索することにした。
スタスタと歩き回るそんな俺を後ろから歩いおってくるのはまぎれもない人間の女。
確かクサナギとかいう名前の奴。
あいにく俺は女にかかわるなとカインと……俺のいた世界の親代わりだった人に言われているので、その声掛けは若干悪いと思いつつも無視をする。


「シュリアさん!」


まぁ耳は聞こえてないと言っていたし、現に耳はかすかな音も補聴器なしじゃロクにひろわないから、それを理由に逃げるというのが得策だ。と、早歩きで曲がり角に差し掛かった時だった。
目の前から来ていた人物に気づかずにぶつかる。


「っと……あぶねぇな……」


どこがで聞いたことのある、いや聞き間違えない声に思わず顔を上げた。


「………………」


そこにいたのはまぎれもなく俺の世界で俺をいろんなことから救ってくれて、助けてくれて、親になってくれたいわば命の恩人
俺の知ってるその人よりもずっと若く見えて、たぶん今の俺と年はそう変わらないだろうな。


「お、草薙、こいつが例の新入りか?」

「冷慈さん!そうなんです!シュリア=ライアーさんと言って……」

「へー、よろしく」


よろしく、と差し出された手はやっぱり俺の知っているそれと何も変わらなった
そういえばさっき、ゼウスって神様が柊さんたちは何百年後の生まれ変わりだとか言っていた気がする。
つまりこの冷慈さんもきっとそういうことなんだろう。


「……オ、レ……」


こんなときに限って言葉はうまく出てこない。
俺が知っているその人は記憶の中と同じように俺に優しく微笑みをかけてくれる。
あの世界でも俺はこの人に何一つ礼が出来たためしがない。
どれだけ荒んでいようといつも真剣に俺と向き合ってくれて、理解をしてくれる数少ない俺の尊敬を抱く人。


「??どうしたんだ?」


でもこの人は俺の知っている冷慈さんでは、ない。
俺のことを現に知らないのだから。そう思いたった途端何かが冷えていき、首を振りなんでもないというジャスチャーをしてその場を離れる。


「あ、ま、待ってください……!」


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