雷神悪化事件

「この世に伝わった、ノアの箱舟。そのノアが私なの。この世界じゃあね。パラレルワールドじゃ男だって話も聞いたけれど。……。雷神のいる世界も同じ"私"だったのよ、その私を殺したのは、まぎれもなく他神話の神二人。一人は恋人だったわ。そいつは何らかの理由があったのか私を殺した。それがフォルセティ。……雷神は、ただそれを、見ていただけ。そう、それだけなのよ。特に話をしたわけでもない、ただ顔を知っていただけ。そんなアンタがどうしてそんな顔をしてるのか、私には理解できないわね」


無表情のまま雷神は泣いていた。
それを見てしまったネメシスはギョッとしながら慌てだす。
そんなに辛く悲しいものを抱えていたんだろうか。そうは見えなかったような気がするのに。と考えながらも。


「……柊、俺の、勘違いだったら、ごめんね。もしかして、柊、ノアのこと、好きだったんじゃ、ないの?」

「……」


もし、そうであれば、ついさっき、ノアが言ったことに全て辻褄があう。
スッキリしないのは、声に出せず、消えたあの愛への後悔。そして、ただ彼女が死んでいく様を見ていたのは、"親友"のグルーガンが"殺した"から。

板ばさみになって、その感情に鍵をかけることを選んだに違いない。とグルーガンは思考を張り巡らせる。


「……。センセー、でも、ハデスと……」

「……。あぁ。ハデスは、俺が放っておけなかったんだよ。グルーガン。全部、当たりだ」


蓋をして鍵をしてしまうことで、逃げてきたそれは、この一瞬でもろく崩れた。
表情を隠すためにいつもつけていたサングラスも、神化している今はないのだから意味もない。


「……愛も幸せも望めば望むほど、ダメになっていく。それを不幸だと嘆いていれば、今度は他人を妬むことしかできなくなる。そう、ならないために俺は、全部をしまいこんだ。それだけだ」


しまいこんでしまえば全てが上手く回るような気がした。いや実際上手く回ったのだと思っていた。
ハデスに会うまでは。ネメシスに会うまでは。


「…………。ネメシス。ネメシスは、愛を知ってるか」

「へ!?いきなり厨二病だな〜も〜!知ってるよ!」

「厨二病は余計だ。……いいもんか?」

「センセーって十分厨二病要素あると思うんだけどな〜…。いいもの、じゃないかな?」


ネメシスの返答を聞いて、柊は安心したように微笑んだ。


「俺は、お前が、好きだった、らしい。ノア」



(俺は、もう、選択肢を間違えない)



「やぁっと、肩の荷が下りた気がするな」



(遅いのよ、その荷を降ろす作業が)


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