人間的女神ノア様
箱舟は隠すというよりも堂々と学園の正面に置かれていて、その前で雷神の柊とフォルセティのグルーガンはただ立ち尽くしていた
慌ててあとを追ってきたネメシスやモリガンですら眼に入っていないようで、箱舟に乗っている、ただ一人の赤髪の女性を見ていた
「センセー……?」
「……」
「……ノアか?ノアであってるんだろ?」
「……別世界だから、生きてるのかな」
二人の表情は複雑そうで今、これ以上声をかけてはいけない気がする。とネメシスは押し黙り、モリガンはノアと呼ばれたその女性を見ていた
「あら、雷神とフォルセティじゃない。人殺しの。二回も私を殺して、見殺しにして、薄情な男が2人ね」
「……っ!?」
「なんで、"ここ"のノアがそれを知って……」
「世界が違っても、罪は消えないわよ。馬鹿ね」
まるで、見下すかのように、彼女はグルーガンと柊を見ていた。ひどく、冷めた眼差しで。
息をすることを忘れたかのように動かない。
「センセー、センセーってば!!」
「っ……悪い、ネメシス」
「お前も、立ったまま寝てるのか、変態」
「いたっ!モ、モリガン……もう少し、優しめでお願いしたいな」
なんとか、ネメシスとモリガンのおかげで我には帰ったものの、その瞳は後悔に泣いているようだった
ネメシスがこの空気に耐えれなくなったのか、大丈夫、と言おうとした直前、その言葉を遮るようにノアが口を出した
「あら、その女神様達が次の犠牲者なのかしらね」
「っ!!」
「ノア!」
どうして、そんなことを言うのかと言わんばかりにグルーガンが声を張り上げて、名を呼んだ
「俺は、俺はー……っ!」
「……、だったら、なんだ」
「!?モリガン……!?」
「私が次の犠牲者だったら、何なんだ。戦争の女神だ。平和をつかさどる、こいつにそう容易く負けたりはしない」
「そうだよ!犠牲者だか知んないけど、センセーはそんなこともうしないよ!前は知んないけど!」
モリガンとネメシスの反論を聞いてすら、彼女は愉快そうに笑った
「流石、女神様かしら。慈愛に満ちてること言うのね」
("人間"はそうじゃないのよ。"そいつら"も人間みたいなものなの。
学習能力が低い哀れな"人間"なのよ)
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