あぁ愛おしい女神様

「……」


未だに何かを思い出すかのように、グルーガンは泣いていた。
決して、あの子と重ねたわけではない。別人だということは頭は理解している。
心がついていかないんだ。と思考を這わせながら、久しぶりに流れたそれを止めるべく落ち着こうとしている。


「……グルーガン」

「ははは、ごめんね、情けないところ晒しちゃったかな。さ、戻ろうか」


気づけばいつもの教師の姿のグルーガンが、儚げに笑っていた
いつの間に止めたのか、その頬には涙ひとつ残っていないように見える。


「……また、貴様は」

「ん?どうかしたかな?それにしても、バルドル、お腹すいたんじゃない?」

「ワオ!凄いね!どうしてわかったの!?なんだかとてもお腹がすいてたんだ」

「まぁ、今は何ももってないけどね。そうじゃないかと思ったんだ。後で肉でもかじっときなよ、肉食系ヤンデレボーイめ」

「うーん……ヤンデレ……?」

「あぁ、ごめん、こっちの話だよ」


フフフとスッカリいつも通り笑いながら、グルーガンは足を進めた。
グルーガンの左耳には、いつもと同じピアスが、木漏れ日を反射し輝いている。


「わぁ、きれいなピアスだね」

「……、ありがとう。これは、大事な、ものなんだ」


バルドルがまるで子供のように目を輝かせながら、平和の神らしい、その金色の十字架のピアスに触れたときだった

パリンッという音がして、今まで大事にしてきた、割れることもなかったそのピアスは千切れ、十字架部分はいつの間にか跡形もなく消え去っていた


「……!!」

「あ……」

「……」


驚きの表情で、自分の左耳についていたその存在が消えたことを確認したグルーガンは、ただ呆然と瞬きを繰り返していた


「ご、ごめん!まさか、壊れてしまうなんて……!」

「…………」

「おい、グルーガン……」

「え、あ、あぁ……ごめんね。大丈夫。大丈夫だよ」


大丈夫と言い張るその表情は明らかに、動揺をしていて、焦っていた。
モリガンはそんなグルーガンを見て、ひとつの感情が隠れていることに、気づいた


「…………。何をそんなに、恐れている」

「……え」

「グルーガン=ルレット。いや、フォルセテイ。何がそんなにお前を動揺させている」


じっと見つめながら聞いたモリガンに、グルーガンは、作った笑みで答えた


(「このピアスは……俺の……生きる理由なんだ」)

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