黒い鳩と白い烏

「……ねぇ、モリガン、さっきの質問だけどね」

「……」

「無理をして笑うのは、"過去にしたい"からだよ。……バルドル、戻ってくれなきゃ俺が困るんだけどな」


でも、平和の神に何ができるだろうなぁ、と呟いて、神化をしたグルーガンはスッと腰の辺りからピアノ線を取り出した。
それには、血のような何かがついているが、戦争の女神であるモリガンには、わかった
その血は大勢の者のものではなく、"たった一人"の血だということに。


「……待て。フォルセティを名乗るお前が、私と正反対のものを司るお前が何故そんなものを持っている」

「……、俺の、大事なものだからかな」


儚げに微笑んで、グルーガンはバルドルへと詰め寄った
バルドルの身の危険を察し、モリガンが間に瞬時に入れば、その一瞬で鮮血が見えた


「っ、モリガン!!」


自我をなくしているバルドルが、あろうことかモリガンに攻撃をしかけたせいだった
右腕から流血をしているモリガンを見て、グルーガンは酷く動揺をし、その場に崩れ落ちた


「ま、た……俺は……!」


肩で息をするように、何かを呟くその様は見ていてとても痛々しい、と思わざるを得なかった


「おい、これぐらい、大丈夫だ。それより、今はー……」


モリガンの発言を途中で途絶えさせるように、グルーガンは抱きついていた。まるで、モリガンの生を確かめるかのようにキツく、震えながら。


「やめろ、頼む、やめて、やめてくれ。俺は、いつものバルドルにあいたい……!だから、この子だけは、殺さないで、バルドル……!」


悲痛な叫び声だけが森の中に響いた
完全に困惑をしたモリガンは、グルーガンの腕の中でただ大人しく、ひたすら考えていた。

何がここまで、平和の神を追い詰めていたのか、考えてもわかるはずもないが、ただきっと、酷く重く悲しい出来事にとらわれているのだろう、と。


「この子を殺すぐらいなら、俺を殺すと良いよ。もう、俺は間違えたくない、から」


スッと震えが消え、開放される。
安心したのもつかの間で、グルーガンは無心で、バルドルへと歩み寄っていた。


「バルドル、バルドルに俺と同じ悲劇は起こさせない」

「っ、やめろ!おい!」


バルドルの光がグルーガンを貫こうとした瞬間、モリガンが槍の柄でバルドルを吹っ飛ばしていた。


「……、え」

「何を考えてる!自分から死にに逝くなど、私には理解できない、馬鹿め!!」

「……。あぁ、やっぱり……」


モリガンの説教に、グルーガンは顔を隠しながら静かに涙を流した。
その涙の理由を知るものは、グルーガンのみ


「あぁ、もう。ほら、眩しい光の神のお目覚めだよ」

「ん、ん……?アレ?私は……何をしていたのかな……」


(彼女はあまりにも、××に似ていて、それでいて悲しい、俺と似ている人だ)

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