魔術の包丁
「止めるしかねーんならさっさと動くぞ」
「あ、あぁ……でも、アレだぞ」
自我をなくしたロキをイシスは指差すものの、哀詞はそれのどこに問題があるのか、という顔をしていた
「いつもと一緒だ」
「え?」
「いいか、俺が引き付けとくから、アンタはそのお得意の魔術とやらで、あいつを戻せ。ま、掛けだし、戻るかなんてわかんねーけどな」
「!!もし、ダメだったら哀詞がロキに殺されるかもしれないんだろ!」
「は?いーんだよ。それはそれだろ」
どこか冷めた目で哀詞はそう呟き、ロキへと声を張り上げていた
「バカロキー!そっちに俺はいねぇぞ!」
途端に放った包丁のような、燃え盛る鉄の刃物はサクッと壁に刺さり、ロキの動きを封じていた
イシスがそっとロキに寄っていき何かを呟く
それすらも、哀詞は聞かずに、木の上へと飛び移り、小さく笑顔をこぼした
「大丈夫だよ、世の中、うまくいくように、できてんだから」
まるで最初から事が収まることを分かっていたかのような口ぶりで、そう言って、哀詞は、神化をしたままそっと瞼を閉じた
一方で、下では元に戻ったロキとイシスが二人して、哀詞を探しているようだった
「どこに行ったんだ……まだお礼もしてないのに」
「うーん、誰かわかんナイけど、ありがとねェ、アンタとその、アイシって奴も」
「私は何もしてない。哀詞の言うことを聞いただけだからな」
それを上でしっかり耳で聞きながら、哀詞はクスクスと笑っていた
(ばっかじゃねぇの。俺はなーんもしてねぇっての)
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