吹かせたのは愛風

「……チッ、何暴れてんだよ」

「おチビちゃんってばぁ、相変わらず短気なんだからぁ」


上空から、神が二人海を見下ろしていた。
下にいるのは、目的の人物、戸塚尊だ


「……」

「どぉすんのさー?おチビちゃんには僕たちの声届いてないみたいだけどぉ」


声が届いていない。何度呼ぼうがその冷めた目だけが俺を射抜くから



「……。届いてないなら、無理やりにでも、届ければいい」

「だから、その方法がないじゃん」

「ある、きっとある」


ないわけがない。だって尊は真面目で優しい奴だから、声は届けようと思えばいくらでも届くはずだと、信じている。そう言いたげな目は真っ直ぐに仮面の青年を捉えていた

……のもつかの間、すぐに冷慈は尊の元へと下降していった


「尊!!もうやめろ!!何があったんだよ!!」


バッと近くまでいきそう問えば、尊が冷慈を海水を操り弾き飛ばした
その衝撃で近くの岩場に打ち付けられ、冷慈は痛みに顔をゆがめていた


「っ」

「……、……」

「俺で、ダメ、なら、アンタが動くしかねぇだろ!!頼むから、動けよ!!」

「……なんで僕が日本神話の奴なんか助けなきゃいけないわけェ?」


仮面の青年のその小さな呟きは冷慈の耳にしっかり入ったらしく、痛んでいるであろう身体を無視し、冷慈はその青年の元へと上がっていく


「ふっざけんなよお前!!何、言ってー……っ」


勢いのあるまま胸倉をつかみあげ怒鳴りつけようとすれば、その青年の雰囲気が悲しみにくれていることを悟って、言葉を飲み込んでいた


「……何が、あったのかなんて、俺みたいな元人間には理解なんかできない。だから聞かないし聞く気もない。……ただ、あいつはアンタが恨む相手じゃないだろ!!」


(ハッとしたその青年が動き出したとき、俺は一人、自分の思考回路を恨めしく思う)


(この俺の行動すら偽善でできているのではないか。そう思うと苦しくなった)

(尊の動きが止まったとき、心地のいい風を吹かせておいた。俺は、"嫌われ者"なりに気を使えることができる)

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