Prologue

「佐保姫様、佐保姫様。貴女様のおかげで今年も綺麗に春の花が開花いたしました。どうぞお納めください」


姿も見えない私に人間は咲いたばかりの花を束にし、差し出して、帰っていく。
帰ったのを見計らって、そろりと出て行ってその花束を受け取ればいい香りが鼻をかすめる


「……。うーん。ま、早く持って帰ってお母さんにあげようっと。どうせ1週間で枯らすんだろうけど!」


そうして神話の本来生きている世界をとびだって、人間の振りをして、今の家族のもとへといく。



「ただいまーぁ」

「おかえり生意気」

「おかえり反抗期」

「おかえり思春期」

「おかえりクソガキ」

「おかえりイマドキ」


「もー!なんなん!?皆して莉子イジめたいん!?はぁ!?うるさいんですけどー!」


せっかく帰ってきたというのにこの家族はなんとうるさいんだろう。
あーやだやだ。と姉に兄に両親に叔父さんにまでからかわれて拗ねていると、クスクスと笑いながら、叔父さんの仲良しで居候をしている外人のアラサーお兄さんがフォローをしてくれる


「あはは、皆莉子が大好きなだけなんだよ」

「うぇ、キモいんですけどー!」

「あぁーん!莉子ちゃん大好きー!」

「ぎゃあああ!姉ちゃんキモイ!来るな!」


そんなことを言ってても、この空間はこれはこれで楽しいのだけれど。
まぁ、兄ちゃんと姉ちゃんはただの人間だけれど、残りは皆神様だし、まぁそんなものこのご時世で時代遅れのようなものだということは理解している。

時代に取り残されないように、私もこう見えて必死なんだ


今時女子って大変で楽しいんだよ。神様なんかよりもずーっと。


「あー!見てみて!これ貰ったんだよー!」

「え!?お前が!?」

「兄ちゃん、莉子のことなんだと思ってんの!」

「性格の悪い今時女子高校生なりたて。猫かぶり」

「きぃいい!!!」


散々な言われようである。まぁどれも事実ではあるのかもしれないが、性格が悪いだけは絶対に違うと断言しておきたい。
絶対兄ちゃんと姉ちゃんの方が悪い。人間って怖いものだ。


「あ、そうだ莉子、アンタ、竜田ちゃんがアンタの部屋に来てるわよ」

「もー!それ早く言ってよ!!最悪ー!竜田も来てるならラインぐらいしろっつーの……!」


お母さんに言われ花束をテーブルにボサッと置いてから自分の部屋へと急ぐ。
ドアを開けて、その光景に目を疑って、一旦ドアを閉める


(たっちゃんめ……。やりおったな……)


そしてもう一回、ガチャッとドアを開けて、そこでくつろぐ様にだらている神の姿をした、同い年ぐらいの友達へ声をかける


「たっちゃん!来るなら連絡!そんで私の部屋を秋にしない!!」

「えーだってこの部屋めっちゃ春じゃん〜あ、無理もないか〜サッホーが春の女神だもんねー」

「たっちゃん……」

「痛い!痛い痛い痛い!踏みつけないで!戻す!戻すからぁああ!!このドメスティックめー!」


竜田 姫という名前の友達。正式名称は竜田姫。そのままである。私とは対照的に秋の女神の竜田姫。悪い子ではないし、人間として生活をしている間は非常に気のあう友達なんだけども。

気が付いたら身の回りに秋らしいものをちりばめる行為をやめてほしい。
たとえば、真夏の学校のグラウンドに毬栗が落ちていたり、いきなり木が紅葉したり。
散々なのである。そのたびに私が殴って止めている。



「たっちゃん……今日という今日は許さないぞ」

「ギブギブギブ!!ごめんってば〜!」


そんなことを言いながら、いつものように人間としての日常を過ごす。


そんなときにお父さんが私にいらん使命とやらを課せてきた。


「おーい、反抗期―」

「もう何!?」

「お前、今日から一年、ちょっと転校してくれ。ギリシャのゼウスの作った"神様の学園"とやらに」

「……はぁ!?」

「あ、もう決まってっから。し・く・よ・ろ★」



(また、あのおっさんは勝手に決めたな……だいたいギリシャのゼウスって誰よ!)


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