全終
(草薙結衣視点)
目の前で、鮮血が散ったことだけは分かった
横たわる2人を見ても、その場から動くことも泣き叫ぶことすらできなかった
「…………」
それはまるでいつかの冷慈さんのようだと自分で思い返す
「…………」
「……冷慈、馬鹿だなぁ。なんで結衣ちゃんのこと、考えなかったんだよ。馬鹿だろお前」
彩詞さんのその声で、全てを理解して、一気に塞き止めていたものが溢れ出す
「いやぁああああ!!!!」
いつも一緒だった2人が目の前で消えた
何もできなかった自分に後悔の念だけが残って消えてくれない
あの時、冷慈さんに過去の話を聞いたりしなければ、こうもならなかったのに。と自分を責めることしかできない
「ごめ、ごめんなさい……っ、ごめんなさい……!!」
謝っても還ってくるわけではないと分かっているのに、ただ謝ることしかできなくて
私が引鉄だから、私が追い詰めたと思えば思うほど何かに心が押しつぶされていくような感覚
「落ち着け草薙」
酷く低い優しい声が耳に入って、顔をあげれば柊先生が私を支えてくれていた
「……冷慈が悪いことをした。きっと本人もどんだけ馬鹿なことをしたかってことぐらいは分かってるさ。……お前のせいじゃない。これは本当だ。草薙は微塵も悪くは無い。あいつ等も俺と同じ事を言うと思うぞ」
「っ…………でも!」
「悪かった。甥が余計なもんまで背負わせて。アンタは悪くない、背負う必要もない。大丈夫だ、馬鹿だが他人のことをよく見てる馬鹿だから、きっとどんな形になろうとまた、お前に会いにくるさ。冷慈だけじゃない。尊もな」
ふと、柊先生が冷慈さんに重なって見えて、わかった
冷慈さんのあの余裕と頼りがい、言うなら兄貴肌さはこの人に似ていたんだろうと
「そう、でしょうか……。また、会えますか?」
「あぁ。きっとな」
また、3人で笑いあえるなら、どんな困難にも耐えてみせる
もう泣き言は言わない
柊先生が、会えると言ってくれたからか、本当に会いに来てくれる気がしたから
あれから私は残った神様達と卒業をして、元の生活へと戻った。
本来なら記憶も消えるところをゼウス様と、本来箱庭を作るように言い出したという中国神話の天様に懇願し、記憶だけは残してもらっている
(いつか、会えるはず、だもんね)
実家の神社の手伝いをしながら、また後悔と少しの期待を考えていると、私のよく知っている、優しい暖かい風が吹いて、思わず辺りを見回した
「冷慈さん!?」
「……草薙、悪い俺で」
「た、尊さ……っ!」
「……冷慈さんがさ、最初は冥府に俺といるっつってたんだけど、なんか、お前のこと話してたら、『行ってやれ、一人残されるのは嫌だろ』って追い出されてよ。酷いよなー」
尊さんの言葉と悲しげな表情から全てが分かった
冷慈さんは死してなお、私のことを考えてくれていた、と
「『お前を俺の我侭で引き止めとくのももう飽きた』とか震えた声で言うのな、あの人。……馬鹿だな、冷慈さん」
「……っ、たけ、るさ……ん……っ」
「ごめん、草薙……俺でも、冷慈さんのこと守ってやれなかった。あの人、俺たちのことばっかりなんだよ……」
不器用だけど優しすぎる冷慈さんだからこそ、尊さんを日のあたる場所に返して、自分のことは気にするなと言ったに違いない
私が、一人だと嘆いて悲しまないように、自分が一人になることを選んだんだろう
「……俺には、冷慈さんの気持ちを裏切ることはできない。したくない。だから……」
(冷慈さんの分まで、俺たちが幸せになろう?)
(優しくて悲しい約束は、私の生涯が終わるまで、きちんと守られた)
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