一人じゃない

何もない、真っ暗なだけの世界に俺はいた
一人でフラフラと彷徨っているだけで、頭がおかしくなりそうなくらいに辺りは黒かった
言うなら漆黒。


(仕方ないのか、暴走した挙句に混乱して自殺なんてしたなら)


案外冷静に状況を飲み込みながらもこれからここで何も見えないのにどうすればいいのかということだけを考えていた
死んだんだからこれ以上年もとらない。つまりは不老
もう死ぬこともない。つまりは不死。
ということは今の俺は永遠にここに留まることになるのか
自殺は生まれ変われないって誰かが言ってたから、そういうことだろう


「……永遠に、か」


ポツリと呟いて、立ち止まる
どうせ歩いても暗闇でしかない何もないなら歩く必要もなさそうだ


「冷慈さん」


冷たい何かが俺の手に触れて、俺を呼んだ
それが誰かなんて一発で分かるけど


「尊……馬鹿だな、お前は早く上にいけよ」

「なんでだよ、冷慈さん置いていけねぇだろ。おれもココにいる」

「はぁ!?」


何も見えないと分かっていても尊の声がするほうへ顔を向ければ、一瞬だけ、見えたような気さえした
あぁ、なんて調子のいい幻覚だろうか


「一人は寂しいだろ……」

「……慣れてる」

「嘘だ。なぁ、冷慈さん、おれがいるから」

「……っとに、馬鹿だよ、お前」


暗闇の中手探りで尊の顔に触れて引き寄せる
何も見えないし、体温もお互いに無いけど、触れて声が聞けることだけはありがたい

そっと口付ければ、尊が俺の背に手を回す


「……馬鹿だろ、本当、馬鹿だろ……俺だけでよかったのに……」


そう言葉にすれば、頬を冷たい水が流れ落ちる
あぁ悔しい。大事な奴をもまき沿いにした情けない自分が


「おれが馬鹿なら冷慈さんはもっと馬鹿だ」

「……あぁ。ごめん。ごめんな……もっと、もっとこっち来て尊」


ただでさえ抱き合っていたのを力の限り引き寄せる
あぁこのまま同化してしまえばいいのに


「ごめん、ごめんな。俺のせいで、お前の人生なくなったんだよな。ごめん」

「謝ってほしいわけじゃない。おれが冷慈さんといたかっただけだ」

「わかってる、だから、ごめん。尊……顔、見せて」


見えるわけもないのに、顔をこれでもかと近づける
もしかしたら見えるのかもしれないと無駄な期待をして


「……すげー我侭、言っていいか」

「ん?冷慈さん珍しいな」

「きっと、もう俺はここから上に逝くことはできない。こんなに何も見えないんじゃ、きっと離れたらもうあえない。だから」

「…………」

「ずっと、俺といてほしい。触れててほしい。こんなところに一人は辛いわ」

「言われなくたってそのつもりだよ」

「……尊、もっと、もっとさ」



(後悔も何もかも埋めるほどお前を感じたい)



fin




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