安易・安易・ワンモアキス

昼休み、俺はいつもの双子と宋壬と一緒に中庭に座り込んで弁当を広げていた
今日はその輪の中に転校生もいる


「へー探してる人かー。ずっと探してるの?」

「あぁ。でもなんかあえた気がするけどな」

「気がする?どういうことだよ」


どうやら転校生は誰かを探しているようだが、それが誰かもわからないという結構不思議なことを言っているようだ

なんか、こう……探さなきゃいけない人、みたいな感じなんだろうか
人間ってほらそういうのあんだろ


「しっかしわざわざ東京から引越してくるとはなぁ」

「冷慈、いつまでだんまりなんだよー」

「別にだんまりってわけじゃねーし。お前等がしゃーしいんだよ」


呆れながらベシっと彩詞の頭を叩く
わざとらしく痛がる彩詞をよそに俺はやっとこさ口を開くことにした


「名前、なんかね、アンタ」


さっきも自己紹介してたと思うけど、生憎覚えていなかった
すまん転校生


「尊。戸塚尊」

「尊な」


170cmと小さめの(双子に言ったら殺される)俺よりも少し小さいそいつは俺に対して妙に緊張したような態度で接してくる
何をそんなに緊張する必要があるのか


「冷慈さん、俺、ずっと思ってたんだけど」

「ん?」


緊張気味なそいつになるべく自分の持ってる限りの優しいトーンで、続きを促す
なんか、弟ってこんな感じなんだろうか。と同級生のはずのそいつを見てそう思った


「……なんか、探してた人ってアンタなんじゃないかって思うんだよ」

「……分かる気がする」


あの時感じた違和感を思い出して、俺も尊の意見に首を縦に振る
きっとどこかで会った気がする、それも大事なこと
俺のなかに意味もない後悔が溢れてでてくる





(こいつだけは、苦しめてはいけない。と強く思った昼下がり)



fin

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