靡く風
「うああああああああ!!」
尊の泣き叫ぶ声がする。もうそこには俺という存在自体がないようで、死体なんかはどこにもなかった
まるで空から見下ろしている感覚に、あぁちゃんと死んだのか。と理解した
(死んだら、やっぱり届かないんだな)
ここは神様の世界だからと、恐らく見えてもいないであろう、俺の手を伸ばして尊へ触れようとするも、空を切っただけだった
(…………)
なんとも言えない後悔が俺を悩ませる
尊には酷いことをお願いしてしまった。
でも、これで、きっと俺もー…
(生まれ変わるってことだよな。でも、最期に1回だけ……触れたい)
また空を切ることは分かっているのに手を伸ばして抱きしめる
当然尊には見えてもないだろうに
ただ俺が抱きしめた瞬間、尊の髪がサラサラと揺れた
「っ、冷慈さん……?冷慈さんどこだよ!?なぁ!!」
(ごめんな)
風が靡く中、俺はずっと泣いている尊を見ている。
泣き顔に後悔が見える。ごめんな、お前のせいなんかじゃないのに、後悔させて
「おれは……!おれはどこで、選択肢を間違えたんだよ……!!冷慈さん、ごめ、ごめん……!ごめん……っ!!」
悪いの俺なのに、どうして尊が謝るんだ?ごめんな。謝るのは俺の方なのに
泣き崩れているのは尊だけではなくて、草薙もだった
幼馴染とかはただ、まるで俺が見えてるかのように、俺の方を視ている
(馬鹿だよ、冷慈)
彩詞の声が脳にダイレクトに響いてくる。あぁ、本当に俺は馬鹿みたいだ
「ごめんな、2人とも」
その言葉を本当に最期に俺は上へと逝く
(またどこかであえたらいいのに)
その切なる願いに希望を馳せながら
次の人生へと進むために
満田冷慈としての人生を
ここで打ち切った
ただそれだけの話
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