別れは始まり

「およそ1年という歳月の中、諸君はワシが命に従い、己をかえりみて成長してくれた。諸君の努力が未来を変えたことに感謝する。今後も世界のため、尽くしてもらいたい。……ワシの口から伝えるべきことは以上だ。今までご苦労だった。諸君の行く道が、幸運に満ちていることを祈っている」


卒業式で、そんな言葉を聞いただけでジワジワと何かあたたかいもんが胸に溢れてくる
1年前、あんなに荒みきった俺をここまで変えてくれたこの場所も、今日でサヨナラなわけだ

随分と神ってもんを理解するのに遠回りをした気がするけど、それはそれで今となってはいい思い出の一つでしかない


「卒業生代表の言葉。アポロン・アガナ・ベレア、前へ」

「はい」


アポロンがスッと立って、ゼウスの元へと行く。
あぁ、入学式もこんなんだった。あの時はこんなに人はいなかったけど
そんな初期の頃を思い出せば酷く懐かしく感じる
たった1年しかたってないのに、その1年が大きすぎたせいだろうか


「数え切れないほど目にした学園の風景も、今日で最後なのかと思い、一歩一歩踏み締めて登校しました。この喜ばしい日に全校生徒が卒業できたのは、大勢の仲間との絆があったからこそです。何気ない日々を誰かに支えられてきました。改めて皆に感謝の言葉を述べたいと思います。ありがとう……本当に感謝しています。僕らはこの学園を卒業し、ここでの学びを胸に未来へと突き進みます。決して諦めることなく挑み続けると誓います。今まで、ありがとうございました」


アポロンの言葉、ひとつひとつに共感をしながら、壇上から降りてくるアホを見る
あいつもいい奴だったなーと思い出しては若干笑いそうになる
ここの神様どもは最初は皆ぶっ飛んでた気がする

そんなことを思い出している間にトトが閉会宣言をしていたようで、気付いたときには卒業式は終わって、泥人形達も跡形もなく消えた


「無事に終わりましたね……最初と同じように跡形もなく消えてしまった。とどまっているのは俺たちの記憶の中だけ」

「ああ。終わってほしくないような。どこかスッキリとしたような不思議な気持ちだ」

「あっれ〜、ターたん泣いてる?ここ、ほら。ほっぺに涙ついてるよ?」

「な、なんだって?って、このうそつきが!何もついていねぇじゃねぇか」


ロキにからかわれている尊を未だ、卒業式のときの椅子に座った状態で眺める
おうおう、最初の頃とは正反対だな。全員、楽しそうにしてんじゃねーかよ

きっと、そういう俺の表情も笑顔なんだろうけど


「神様でも卒業式で悲しんだりするんですね」

「それを教えたのはお前だろ?」

「だいぶ人間っぽくなったかなぁ?あぁ、もう神様に戻れなさそうだし、神様廃業しちゃおっかなぁ〜」

「ディディはもとから人間くさいだろ!」


ギリシャ神話の漫才は実に面白いと思う。まぁ、確かにディオニュソスは人間くさいけどさぁ
チラッと自分の姉のほうを見れば、ルア兄と2人で、これでもかというぐらい泣いていた

……あの2人はこういうのの涙腺は弱いもんな、と半ば呆れた表情で溜息をつく

そして思う存分最後にふざけあってから、俺達は行くべき、帰るべき世界へと戻るために、全員で廊下を騒ぎながら歩いていった


きっとこれはとても迷惑な集団だな。と最後尾で冷静に考えながら


そしてそれぞれが元の世界へと帰っていく
もちろん、俺と草薙も、尊の住んでいた日本神話の世界へと足を進めた

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