逃げた先

ルア兄……いや、青龍によって降らされた雨に濡れた俺にトールが雷を落とす
直撃すれば間違いなく死ぬだろうということは分かっている


「……誰が簡単に当たってやるかよ」


落ちる寸でで、即座に避ければ、その雷は真っ直ぐ下の木へと落ちていく
濡れた木に落ちた雷のせいで、瞬時にそこだけが燃え盛っていた
完全に自我をなくしている俺の目にはその光景ですら愉快にしか映らない

逃げ惑う、困惑している生徒を見下すかのように未だ暴風を吹かせている


「はっはっはっは!!!どうしたぁ?んなに恐いかよ。命が消えることが」


「……くそ真面目ゆえの思考なのだろう」


下から俺を見上げるトトがそう呟いている
くそ真面目?笑わせる。俺が仮にくそ真面目なら、こんなこともしない。捻くれもしなかったろうに

そう思ったら、途端に何もかもが滑稽に感じてくる


「ははは、あははは!!」


わかったようなことを言っている。それは何も、トトだけじゃない。草薙も、尊も、俺の幼馴染も姉ちゃんですら、きっとそうだ


「"信じる者は救われる"なんて、とんだ綺麗事だろ?これだから、夢見てる神様連中はよぉ」


暴風を自在に操りながら、蔑んだ眼で下にいる仲間だと思いたかった奴等を見下す
どれだけお前等が必死になろうが、俺のことがわかるわけでもない。所詮、別の存在だ
いくら血の繋がった柊さんや姉ちゃん、妹でも、わかるわけがない
今まで、俺のこの思考のことなんか誰にだって話してこなかったんだから


「やめてください!!お願いします!冷慈さん!」

「やめる?はぁ?冗談だろ。こんな楽しいのに何をやめる必要があんだよ。やっと、俺が楽しめてんだぞ。……こんな俺じゃ、草薙は、許せねぇってか?」


下へと降りて、草薙へ詰め寄る。あと少しで、首を締め上げようというときだった


「草薙!!」


尊が割って入ってきて俺に剣を振るう。当然避けはするが、襟足の一部が掠ったようでハラハラと下へ落ちていた


「尊……邪魔、すんなよ。俺は腐り切ってるこの世の中を潰してやんだからさ」

「お前……冷慈さんじゃねぇな……!冷慈さんに戻せよ!」


おかしなことを言ってる。俺は、俺だろ?トチ狂っている俺の状態では、どうやら尊の言葉ですら、しっかり聞けないようだ


(したくない。こんなこと、したくない。やめろやめろやめろ、頼むからやめてくれ)

どこかで自分が悲痛に喚いている気がする
馬鹿だ。これは俺が、望んだ結果なのに、今更やめろだなんて

どこまでもお人よしなんだろう


「邪魔なんだよ!!」


迷いが一瞬でも生じたせいで苛立ちが隠しきれなくなった俺は尊をも吹き飛ばす
いつだって他人を信じて、痛い目をいてきた。それなのにー……

まだ、信じたいと心のどこかが叫んでいる
もう、無理だと頭ではわかっているのに。


「最初から!信じてなんかねぇ。全部、全部付き合ってやっただけだ!どうだ、これが俺だよ!満足か、本性が知れて」


グシャっと音を立てながら、そこらに無残にも散ばっていた燃え尽きた木を踏みにじる

もう、誰にも関わって欲しくない。救世主なんか、いなかった
いくら祈ったところで無意味だった、俺の幻想だと、逃げだと悟っていた


「お前達、ここは一旦退け!このままではお前達までが殺されてしまう!」


ゼウスの声が耳に入る
殺される?……よくわかってるんじゃねぇか
だって、世の中に不要なものはゴミだろ?ゴミを駆除することの何がいけないことだ


ゆっくりと、尊に近づこうとしたとき、俺の足を誰かが掴んだ


「冷慈、さ、ん……嘘、ですよね……付き合って、やっていただけの人が、あんなに、楽しそうに笑うわけが、ない……です」


俺の暴風に直撃をしていたのか草薙が苦しそうに、這い蹲っていながらも俺の足を掴んで止めていた




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