たどり着いた神社


「おーい、彩詞ー、哀詞ー、宋壬ー。……あいつ等、どこ行ったんだ……」


俺達は4人で現在あの計画をしていた卒業旅行に本当に来ていた
いつもより遠出をして、新幹線に乗って行ったこともないような土地の神社をめぐっていた
これもあの双子の要望だった

んで、見知らぬ土地で珍しく俺が一人だけ逸れて、このザマというわけだ


「……この辺まだ神社あんのか?」


全く知らない土地を、ただひたすらに歩く
吹いている風が頬を撫でて、心地いい


「あ……神社……」


ふと上げた視線の先に、あいつ等の好きそうな神社が一軒あった
そこの階段をゆっくりと上がっていく


「…………」


昇り終えたとき、風が少しだけ強めに吹いて、桜の花びらを散らす中、神社内を竹ぼうきで掃除をしている同い年くらいの巫女さんを見つけた


「あ、すいませー……」


俺の声を聞いて、振り向いたその人に思わず目が奪われる
知らない、はずなのに知っている。俺はこの巫女さんを知っている
そんな気がした


「……あ、あの……」

「っ……、すいません。卒業旅行でこっちに来てたんですけど……友人と逸れてしまって」

「あ、そう、なんですね……先ほど、3名の参拝客の方も同じことをおっしゃっていたので……そう遠くには行かれてないかと思いますよ」


優しく笑うその顔は確かに見覚えがあった
どこで見たのか、誰なのかなんて大事なことはわからないけど


「……すいません……どっかで、俺と会ってませんか?……あ、いや、ナンパとかじゃなくて、真面目な話で」

「……私も、同じことを聞こうとしてて……」


困ったように笑うその人を見て、なんでか衝動に逆らえなくて、手を伸ばした
頬に軽く触れたとき、その人の目から涙が落ちたのを見て、慌てて手を引っ込める

何してんだ、俺これはセクハラじゃねぇかよ


「あ、わ、悪い……じゃなくて、すいません、べ、別にセクハラとかじゃ……っ!?」


慌てて弁解をしていると、巫女さんのほうから、俺に抱きついてきて、声にならない声をあげる
でも、嫌ではなかった
むしろ、このぬくもりでさえ、初めてなはずなのに、知っているような感覚


「ご、ごめんなさい……なんだか、体がその、勝手に……」

「いや……俺も、その、うん。大丈夫です」


今までこんな経験は無かったせいで若干戸惑いはあるものの、つい、巫女さんに腕を回す
今まで知らなかった感情だけが俺を満たしていくようなそんな感じ

愛しい。それだけで今はいっぱいいっぱいだった


「あの……順序おかしい気もするんすけど、名前、聞いても……」

「草薙、結衣です……あの、あなたは……?」

「満田冷慈です」


草薙結衣、その名前を何度も頭で復唱する。呼びなれているような気がするほどしっかりと馴染んでくる


「……。その、もし、よかったら初めて会ってこんなこと言うのもおかしいんだろうけど……俺と付き合ってくれませんか」


自然と口がそう言っていた
まぁ、俺はこの辺りの人間ではないし、3日後には地元に帰る。そうなったら会うに会えないからこんなことを言ってしまったのかもしれない


「……はい」


その返事に変に安心をして、彼女を離してから、色々と聞いてみれば同い年だということと、武道が好きだという共通点があることが分かった


「……あ、忘れてた。あいつ等探さねーと……」


あまりに酷い懐かしさと愛おしさについ話し込んでいて気付けば日はもう傾いていた
また怒られるな、あいつ等に


「それじゃ、草薙。また、来るな」

「はい。冷慈さん」


お互いの連絡先はしっかり交換した
どうしてこんなに懐かしく感じて、満たされたのか
考えるだけで不思議な出会いだと思いながら、いつも以上に幸せを感じて、俺はまた幼馴染を探しに行こうと足を踏み出した

そこで気付く


「……俺、迷ってんだった」

「えぇ?」

「悪い……どっか分かりやすい道まで、案内してくんねぇかな。巫女で忙しいところ申し訳ねぇんだけどさ」

「ふふ、いいですよ」


横に並んで歩きながら、2人して笑いあう
歩いた先で目の前に広がった海を見て、思わず足を止める
またあの懐かしさを感じた

どうやらそれは俺だけではないようで、草薙も足を止めてみていた


「……なんだか、懐かしいって感じがします。いつも見ている海なのに、今日に限ってなんでだろう……」

「……ほんとだな。海、か。……前世とかでなんかあったりして」

「ふふ、意外とロマンチックなこと言うんですね」

「ロマンチックって……。まぁ、いいや」


そのまま、少しの間だけ、2人で海を眺めていた


(いつまでも、どんな時でも俺はアンタを見つけてる)


草薙の横顔を見ながら、幸福に浸りながら。



Fin

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