戻った人間性

「……れ……?俺、ここで何してんだ?」


ふと視線を上げたら、見慣れた海にきていた。そういえば、今日も、学校で嫌事が重なって俺は逃げてきたんだっけ

不思議と今まで抱いていたような、他人に対する嫌悪感というのが俺の中で薄くなっているような気がした


(……そういえば、俺……なんでこんな風に思うようになってんだ?)


こんなに、荒まずにいられている理由が分からなくて、記憶を掘り返してみても、何も思い出せなかった
ただ、何か、忘れているような、そんな気だけが残っている
何か、大事なことだったようなそうじゃないような


「……まぁ、いいか……。ん?」


俺の足元には、太い紐にアクアマリンの通った、綺麗な何かが落ちている
長さ的に、アンクレットっぽいような、何か
おまけに、こんな砂利だらけの海岸に珍しく綺麗な貝殻まで


「おぉ……誰か捨てたか?もったいねぇな」


そそくさとその二つをポケットへと入れて、海岸から出て行く
向かう先は、サボって出てきたはずの自分の高校
……嫌なことがあるかもしれない。また俺は俺を否定されるんだろう。あの場所は本当に地獄だった

でも……戻ろう。きっと俺は一人じゃない。不思議とそう思えてくる
本当になんでいきなりこんな思考になったのか、さっぱりわからない
少し前までなら、このまま家に帰るか、海にいるかのどっちかしか選ばなかったのに


(……よし、帰るか)


一歩一歩、歩いて高校へと向かう途中だった


「冷慈ー!」

「あ、彩詞たち」


前から俺の幼馴染が3人、走ってくる
あの様子だと俺を探してくれていたらしい


「もー、お前何処行ってたんだよ……!探したんだからな!」

「お、おう……すまん」

「すまんで済むなら警察はいらねぇ!!」

「……お昼、冷慈のおごり」


彩詞、哀詞、宋壬が思い思いのことを口にする
あぁ、なんだ。俺にも仲間はいたのか


「えー、俺のおごりかよ!」

「俺、疲れた……冷慈のために、走った」

「わーったわーった!おごりますよ!」


それから、毎日その3人と一緒に過ごした

気付けば、もう高3も終わろうとしている3月の頭
あれから1年がたっても、俺の中でなんだか大事なことを忘れているようなあの感覚は抜けることはなかった




「もう高校生活も終わっちゃうなー」

「そうだな」


双子がシミジミとそんな話をしている
そうだな、明日は卒業式だもんな……本当に色々あった
と、言っても大半は俺が捻くれて荒んでいただけの記憶しかないけど


「なぁー冷慈、哀詞と宋壬と話してたんだけどさ、一緒に卒業旅行行かない?」

「卒業旅行なぁ……まぁ、お前等とならいいか」

「よーし!決まった!じゃあさじゃあさ!俺と哀詞、神社回りしたいからさ……!」


着々と計画が進んでいく。その側で、俺は一人またあの忘れてしまっている感覚に駆られていた
なんだろう……前にもこうやって、楽しんでた気がする
それもこいつらじゃない、誰か他の奴等と

でも、現に今の俺の幼馴染兼友人はこいつ等以外にはいない


「…………ほんと、なんなんだろうな……」


そう小さく呟いて、考えることを止めた

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