きっと会いに行く

「……お、れは……もうげんじつから、逃げたく、ないから……人間に、戻るよ」


ポツリと呟いた。それは俺の苦渋の決断だった。確かに戻ってもきっとあの時と同じでまた俺が否定されて壊されていくだけなのかもしれない

でも、草薙みたいな、人間も少なからずいるということを知ってしまった
向き合うことを覚えてしまった


「……そっか」


尊が安心と寂しさの入り混じったような表情になる
そんな顔をしないでくれ。俺だって、お前ともいたい。
人間に戻れば、よく考えれば草薙とも会えないかもしれない
なんたって多分住んでる場所からして違うだろう同じ日本の同じ時代でも


「…………大丈夫。きっと、会いにいく」


選んだ途端に体調がよくなりだしたのが分かったからゆっくりと起き上がって、尊と草薙の頭を撫でる
これぐらいしか出来ない


「……俺が草薙を探す。時間がかかったとしても。尊のことだって、忘れたりしねぇよ。俺の大事な大事な奴なんだから」


いつの間にか、他の奴等は出て行っていたようで、室内には俺と草薙と尊だけが残っている
もう、俺がどれだけ念じても俺の感情で風が動くことはない
窓枠も壊れないし、窓ガラスも割れることもない。安泰ってことだな


「……よし、俺も体調も戻ってきてるし、明日から卒業まで時間もそんなにねぇんだから、3人でできるだけ沢山、竹刀でも振り回すか」

「竹刀は、振り回しちゃいけませんって……」

「……っ、ほんと、草薙の言ってる通り、だっつーの……竹刀振り回すな、よ。不良冷慈さん」

「あー?俺は不良じゃねぇぞ、失敬だなお前ら」


クスクスと笑いながらそう言えば、2人が泣きたいのか笑いたいのかわからない表情で微笑んだ
大丈夫、きっと生きていればまた会える。
尊とはもはや人種が違うからどうだかはわかんねぇけど、それでも、俺の記憶の中にはいるから、大丈夫。


「うっし。明日は俺がお前らに弁当作ってってやるよ」

「ほんとですか?寝坊してお昼抜きとかになったら冷慈さんのせいですよ?」

「草薙……お前言うようになりやがって……」

「冷慈さん、起きるの遅かったもんな、合宿んとき」

「尊、お前もか」


確かに俺は朝は苦手ですけどねー。すいませんねーと不貞腐れながらも、別れのときまで時間はそんなにないことを実感して、しっかりと残りを楽しまなければ。と改めて思った

今まで山のように遠回りをしたんだから少しの時間でも楽しまないと損だ。
それに、こんなに楽しいと思える相手なんてきっとこいつらが最初で最後だ

だから


「………………今日、お前ら俺の部屋に泊まっていかね?」

「「え、えぇええええ!?」」


1日、24時間。片時も離れたくない。と思うのは俺の我侭なんだろうか



「合宿だと思えよー。それともなんだ、俺と一緒じゃ嫌か?あんだけ好き好き言っておいてそらないだろ。な?」

「うっ……」

「…………恥ずかしいですよ」

「んなことねぇって。ほれほれ。いるもんあんなら10分で取り行ってこい。10分だけ待ってやっから!」

「冷慈さんなんか急に意地が悪くなったな!?」

「ですね……!」

「ははは!んなことねぇよ」


(楽しいけど、終わりを考えるたびに胸が張り裂けそうなほど切なくなる)


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