感づきだした異変
それからは、いつもどおり3人とも振舞っていた。
まるで屋上でのあの出来事なんかなかったみたいに
ただひとつ違うことがあるとすれば、俺だ
「……冷慈さん、顔色悪いですけど大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫」
「大丈夫じゃねぇだろ!?すっげー顔色悪いし……」
あれから俺の体調は卒業式が近づくにつれ、徐々に悪化して来ている。今日の朝なんか咳き込んだときに血を吐いてしまった
理由は未だに、俺が風神になるか、人間に戻るのかを選べないから。ただそれだけなんだけども
「今日は部活やめとくか?」
「そうですね……」
「やめんな!やるぞ!ほら屋上さ行った行った!」
グイグイと尊の背を押すようにしてごまかすために歩く
もう時間も無いのに別れに感傷を感じている暇なんかない。楽しまないとそんな気がするから
「ほら、草薙も行くぞ」
「はい……」
「待て、草薙、貴様に話がある。来い」
トトに呼ばれて、草薙は先にそっちの用事を終わらせてくると、トトについていった
俺と尊は体育館へと足を進める
「……なぁ、冷慈さん。本当に、大丈夫なのか?」
尊は心配そうに俺の顔を覗き込んでくれる。
そんなに心配されるなんて嬉しいじゃねーかよ。と思いながら多少の罪悪感を感じつつ、大丈夫だと口にする
「ほんとか?」
「あぁ。大丈夫だって」
「……なら、いいんだ」
くしゃっと撫でてやれば、堰を切ったかのように尊の目から涙が一筋だけ零れ落ちた
「!?ちょ、おい!泣くなって!」
「っ、だってよ、冷慈さん、すげー顔色悪いし、さっきから足取りだって地味にフラついてて、それでも、大丈夫だって言ってるけど、でも、今にもいなくなりそうだなって思ったら……!」
「…………尊……」
今のままでは俺は確実に消滅してしまうのはわかってる。でも、俺はきっとどっちも選ぶことなんかできねぇから
「……大丈夫。きっと、大丈夫だから」
何が大丈夫なのかはわからない。でも、そう言うしか今の俺にはないんだ
消えてしまうまでにはどちらかを選べるようになってるんだろうか
「よし、草薙が来る前に泣き止めよ!ほらタオル貸してやっから。なんなら胸も貸してやろうか」
「い、いい!泣いてねぇし!」
「嘘つけ。……ありがとうな。そこまで心配してくれて」
ヘラっと笑ってそういえば、尊が余計に泣き出した
もう俺どうしたらいいんだか、のお手上げ状態である
「…………尊。俺は死んだりしない。だから、笑ってくんねぇかな。それに、顔色が悪ぃっつうのも最近あんま寝れてないからってだけだと思うからさ。な?」
本当は、毎日毎日、就寝時間には寝て、朝もギリギリまで寝ていてコレだが、あえて嘘をついた
これ以上、泣いてほしくない。笑っていてほしい
「……草薙、か」
遠くからパタパタという足音がして、草薙が屋上へと上がってくる。
体育館は卒業式の準備のせいで使えないらしい
「遅れました……って尊さん、大丈夫ですか?」
タオルで顔を隠してはいるものの、肩が震えていることから泣いていることくらいすぐに分かる
草薙はそんな尊の心配をして近づいていく
「だ、大丈夫だ!」
「でも……」
そんな様子を見ていると、視界がぐらりぐらりと回っていた
あ、これはまずい
今、尊に死なないって言ったばっかりだぞ俺
そう思ったときにはもう倒れていた
「冷慈さん!!」
「っ、嘘だろ!?冷慈さん!!さっき死なないって言っただろ!?なぁ冷慈さん!!」
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