放課後センチメンタル

放課後、俺はトトに呼び出され、一人学園長室へと向かっていた。
何やらその間に尊と草薙は屋上で話をするらしい。まぁ、丁度いいだろう
一緒に難題を潜り抜けた男女が、2人きりで話すことなんて想像がつく。
あぁ、若いってすげぇな。青春だな。そう思いつつも少し胸が痛かった

なんだろう、こう……寂しい、というか、悲しいというか、切ないというか、嬉しいというか。
どれにも似ているようで似ていない。名前がつけれないなんともいえない、感情だった

そのまま、一旦深呼吸をして、そのことは忘れて学園長室のドアを開ける

前まではあんなに嫌だったのに、今ではすんなりと開けれるようになっていた
これも、あいつらのおかげだ。



「待っていたぞ、冷慈」

「おう。それで、今日は、なんだよ?」

「……お前は、覚えているか、お前がここへ来た目的を」


ゼウスの真剣な問いに俺は、ハッと思い出した
そうだ、俺がここへ来た理由……。それは、神を学んで、理解すること。
自分が、神へなるために

あの時は、絶対に俺は神を理解なんかしてたまるか、とあんなにも頑なに拒んでいたのに、今ではすっかり、真逆になってしまっている


「もちろん、理解はしているであろう。その上で、元の世界へ戻るということも可能だ。当然、風神を継ぐことも、な。選択はお前次第だ」

「……まだ、わかんねぇ。俺は、今はちゃんと神ってもんが思ってるほど残酷な奴等じゃなかったってことも、楽しくて、いい奴だってことも理解はしてる。けど……人間ってもんも俺が知ってたあんな残酷な奴等だけじゃないっていうのも知っちまったから……。もう少し考えるよ」

「……そうか。それは構わん。だが……」


ゼウスが言いにくそうに言葉をつむぐのを止める
そんなに、悪いことがあるんだろうかと俺もある程度のことを覚悟して話を聞こうとまた深呼吸をする


「……早めに、決めなければ、消滅してしまうのだ。満田冷慈という人間そのものが。一度神化した今や、お前は神でもあり人間でもある。だがそのどちらもでいることは不可能。人間の体に神の能力では、体がついていかないのだ」

「……あぁ」


それは分かるような気がする。何か体調に変化があったというわけではないが、やっぱり俺は体は人間でも能力は風神なんだ
そうなれば俺の体が持たないことなんてあっさりと考え付くことだった


「消滅をするよりも、先にお前は自分の未来を決めねばならん。いいな?」

「……。あぁ、わかった。ありがとう、学園長せんせ」

「!!……あぁ、いつでも相談に来るといい。お前はワシの生徒、なのだからな」

「……泣かそうとしてんな?……泣いてなんかやんねーぞおっさん。じゃあ、俺、行くわ」


学園長室を出て、その足取りで屋上へと歩いていく
このことを言おうとは思っていない。これはまだ、俺がどっちの人生を歩くか決めるまで誰にも言わない。


「…………こう、弱ると、無性に会いたくなるんだもんな」


屋上のドアをゆっくりとあければ、尊と草薙が話をしているのが目に入る


「これが切ねぇって気持ちか……人間ってほんと面倒だな」


尊がそう呟いた。そうだ、俺は選択が出来るにしろ、草薙は、帰ることになるんだ
……いつまでも3人一緒というわけじゃない。
そう思うと、俺まで、なんだか切なくなってきやがる


「なんだかよく分からねぇが胸が苦しくなる。今まで失って困るもんなんて無かったからな……気付いてよかったし変わったことに後悔はねぇ。でもそれがこんなに悲しいなんて知らなかった」


俺は結局2人の邪魔をしないようにこっそりと物陰へ移動して座り込む。
あぁ空はここも青いな。最後に見た元の世界の空はどんなんだったっけ
曇り?雨?晴れだったろうか。もう、忘れてしまった


「心が壊れちまいそうだ……」


尊の呟きはしっかりと俺の耳にまで届いていた。俺も、壊れそうだ
今まで、既に壊れてはいた心を修復してくれていたのに、離れなければならないと思うと苦しい。
おまけに俺の場合なんて、風神を選べば、日本神話で尊と一緒。人間に戻れば、もしかすると草薙に会えるかもしれない

そんな究極な選択なわけで
切ないその気持ちで、ゆっくり立ち上がろうとしたら不意に眩暈がして前のめりにこける

当然声は出るし、物音もするわけで


「うおぁ!?」

「!!……冷慈さん!?」

「っててて……悪い、ちょっと会いたくなって、来たんだけどさ、すげーしんみりしてて、流石に空気壊そうとも思えなくてさ。まぁ、コケてバレるなんて想定外だけどな」


バルドル第二号だなーとヘラっと笑ってみる
これ以上この空気だと、本当に泣きそうだ
それは、避けたい。最後は……いや最期は笑って離れたい

草薙も尊も、俺にとっては一生大事な存在になることは間違いないだろう
それだけ好きなんだ。


「…………好きだ、草薙も尊も」

「え?」

「?」


あまりに小さすぎる声で呟いた俺の声は、2人には届いていないようで少し安心した
今、言葉に出して気付いたんだ。俺は、2人のことを弟や妹としてみていたんじゃないだって


「なんでもねぇよ、俺、これ以上、邪魔すんのも悪いし、先に部活してるな」


それだけ言って、屋上から降りようとしたときだった


「冷慈さん!」

「…………」


尊が不意に俺の名前を呼ぶから、振り返らずにはいられなかった
草薙も俺の方を見ている


「……ありがとう、俺が変われたのは草薙がたくさん話しかけてくれたのと、あの時、俺の話をただ、聞いてわかってくれた冷慈さんがいたからだ、だから、ありがとう」

「……な、何を言うかと思えば、そんぐらいで礼なんかいるかよ。じゃあ次こそ行くぞ」

「ま、待ってください!私の話も聞いてください!」


尊から言われた言葉をしっかり受け止めて、泣きたくなるのを押さえて次こそ降りようとしたのに、草薙までもが俺の足を止めさせる


「草薙……」

「あの、いつも、いつも助けてくれてありがとうございました。とても感謝しています。冷慈さんが仕方なしにでもずっと一緒にいてくれたから……心強くて、とても救われました。本当に嬉しかったんです」

「……それは、俺の方こそだな。お前らには世話になりっぱなしだった。特に後半な」


自嘲気味に笑えば2人は首を横に振って俺に抱きついてきやがる
なんだよ、もう、かっこつけようって頑張ってたのに


「好きだ、好き、好きなんだ……冷慈さん……っ」

「……っ」


好きだと繰り返し尊が言うたびに、まるで自分もだと言う様に草薙が俺に回している腕に力をこめる
剣道部員2人に抱きつかれて……あぁもうまったく


「こら、お前ら。いい加減にしろ。部活、すんぞ。時間ねぇんだ。楽しもうぜ?俺も今日から剣道ちゃんとすっからさ」


(精一杯、笑ったつもりだけど、ちゃんと笑顔に見えているだろうか)

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