久しぶりの学園
朝練も終えて上機嫌で久しぶりに教室へと入る
尊と草薙と話しながら、授業まで間の時間を潰す。前ならこの時間はあっさりと寝ていたのに、こうも変わるんだもんな不思議だ
「オハヨォ〜!って、ターたんと冷慈ちんじゃん!なんでなんでェ!?」
「登校してきたということは、停学処分が解かれたのかな?」
「元気そうだな」
「タケタケ、カゼカゼ、お帰り!何だかとても久しぶりに感じるよ。久しぶりだ!」
「……おう。今日から復帰するんで、よろしく」
尊は仏頂面でボソボソと話をしている。あー可愛い、男にこんなことを言うのはおかしいかも知れない。だが、可愛い
「冷慈。おかえりー。顔、緩んでるよ。だらしないなー」
「やっとかよ、遅ぇんだよお前」
「……お帰り」
「彩詞、哀詞、宋壬……ただいま!」
「あーカゼカゼ!僕らだってお帰りって言ったのに!」
「おうおう、皆ただいま!」
アポロンと謎の抱擁をして、友情の確認作業を行っているなうです
……いや、まぁ友達だもんな、いいんだよ、うん
幼馴染も相変わらずの態度で俺を迎え入れてくれた
それだけで、また暖かいなぁとシミジミ思う。俺ももう年なのか、言ってることがジジくさい気がしてきた
「戸塚尊、満田冷慈。お帰りなさい」
月人からも声をかけてもらって、俺はヒラヒラと笑って手を振った。月人もとても好きだ。宋壬に似てるし、何より意外と話しやすい
「あにぃ……おれ、おれ……これからは真面目にやるよ」
「無事に剣道部、空手部の廃部も解かれたと聞きました。おめでとうございます」
「はい。今日からまた、尊さんと冷慈さんと一緒に剣道部の活動を再開させました」
草薙が嬉しそうに言う。あーなんだよ、その満面の笑みは。ほんっと、俺は空手部だからなっていうツッコミすら入れるのを忘れてしまいそうだ
何度も思うが、本当に草薙も尊も可愛い。あー愛おしい。
「暫く活動出来なかった分、取り戻さねぇとな!」
「そうですね!頑張りましょう!」
「冷慈ー。顔、思いっきり緩んでてだらしない」
和気あいあいと話す2人を見て、思わず頬が緩んでしまっていたらしく、後ろから彩詞が俺の頭に本をガスっと当ててくる
……いてぇ
「いてぇだろーもー」
「……なんでそんな笑顔のまんま言うわけ?気持ち悪い……」
「さぁ、なんでだろうなー!」
ヘラヘラと笑う俺を見て、彩詞が明らかに引いているのがわかる
ごめん、今はそれどころじゃねぇんだわ。俺の癒しを見なければならん
そう、俺が完全にヘラヘラしてるときだった
「そういえば、3人に聞きたいのですがいいですか?」
「おう!あにぃの頼みとあれば何でも答えるぜ!」
「ん?なんだ?」
「3人の恋の結末はどうなるんでしょうか」
月人のとんでもない質問に、俺は思わず目が点になる
は?恋?……多分俺のこの思いとやらは恋ではなさそうだ。どっちかっつうと弟、妹を愛でているような。そんな気分なのだ
「え!?」
「こ、こ、こ、恋ぃ!?ああああにぃ!なに言ってんだ!?」
草薙と尊がいつかのように瞬時に茹蛸のようになった
あ、これ、そういえば、月人は俺達の三角関係の小説を書いてたんだった
「合宿で書いていた小説なのですが途中で分からなくなってしまったのです。俺にアドバイスをもらえますか?」
「……突然言われても」
草薙は困ったように黙り込んでいる。俺はというとこの状況が実に面白いので、もう少しだけ観察に走ろうと思っている次第だ
「あにぃ……そういうのを聞くのは野暮ってもんだ。事実がどうであろうとそういうのを人に言いふらすのは趣味じゃねぇんだ。草薙も冷慈さんも困ってるし、こればっかりはあにぃのお願いでも聞けねぇな」
「そうですか、残念です」
尊の上手い切り替えし、おぉ。と思いつつも黙っているだけで実際には楽しんでいる俺はニヤリと口角を吊り上げる
「なぁなぁ、じゃあいいこと教えてやろうか」
「!?冷慈さん!な、なな何言う気だ!?」
「んなに慌てるなよー、ちょーっと、月人が困ってるってんならアドバイスのひとつや二つくらいやったって構わないだろ?だって、小説の話だもんよ」
「それは……い、いやでも……」
完全に羞恥から戸惑っている2人を見て、ニヤニヤと喜んでしまう
これはいいリアクションだ
「それでは、満田冷慈、教えてもらえますか」
「おう!あのな、あのな、聞いて驚けよ〜……」
わざと、他の奴等にも聞えるような音量で月人に話そうとすると、止めろと言わんばかりの顔をした2人が俺の腰に巻いてあるジャケットを掴んで身を乗り出している俺を止めようとしてきた
「カゼカゼ!一体なんの話をしているんだい?何の話かな!?」
「なぁに、なぁに〜?おもしろそうだねっ☆オレも混ぜて〜♪」
「だから来るなって言ってんだろ!!」
尊が、俺の声を聞きつけて寄ってきた2人にシッシと払うように必死に言っている
いやぁ、楽しい
「あっはっは!ごめんごめん、たださー俺達3人の仲良し話をしてただけだって!」
ケタケタと爆笑をしながらアポロンとロキに事情を適当に話しておく。一応、嘘ではないしな
なんだーもっとおもしろいことかと思っちゃったじゃーんと拗ねるロキとそれは素敵だね!と目を輝かせるアポロン、あぁ、なんで今までこんな面白い奴等だってことに気付かなかったんだろうな
俺って結構馬鹿だ
「……変わったな。教室がうるさくなりそうだ」
「変わったと言えば変わったのかもしれません」
ハデスと落ち着きを取り戻した草薙がそんな会話をしているなんて、皆と話をしている俺には聞えてなかった
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