迫り来る終了時刻

それから、俺達は授業には出ることはせずに、屋上にいることにした
今下へ降りればもしかすると二の舞になる可能性もある、そう判断したからだ

でも、時間は刻一刻と迫って来ている
多分、ゼウスが何も言ってこないということは、俺は未だ真の強さというもを見つけれていないんだろう


「真の強さ……か。空手ならイケるんだけどなー」


冗談っぽく正拳突きのポーズをしてヘラっと笑ってみる
するとそれにつられてかよほど俺がなんかおかしかったのか、草薙がクスクスと笑って、尊がキョトンとしていた


「な、なんだよ」

「いえ……冷慈さんもそんなお茶目なことをするんだな、と思って」

「俺も、びっくりした」

「お前らなぁ……」


確かにこういう風に冗談を言うことは幼馴染とかの前でしかしねーけど、そこまで珍しいもんでもないだろうに

そう思いつつ、2人を見ているとなんだか、心に落ち着きが出てくる

あー、好きだな。と素直に思う。どっちが好きとかそんなもんは知らないけど
でも、見ていると、切なくなったり苦しくなったり嬉しくなったり

やっぱりこの2人は笑っている方がいい。それだけで俺も幸せだな、と実感する

おかしいな、こんな奴じゃなかったのにな。俺



日も傾いてきて、いよいよ下校時間になってきている
多分あと10分とかそこらだと思う


「……ゼウスさんから何もありませんね……」

「…………いや、まだだ!諦めちゃだめだ!」

「そうですね!」


俺のことなのに、自分のことのように考えてくれているこいつらが愛おしい
こんな、甘い感情を俺が持っているなんて、まったく知らなかった

いや、知らなかったんじゃない。知ってたくせに、認めなかったんだ

終わりが恐くて、自分が変わっていくのが恐くて、こんなのは俺じゃないんだと塞ぎこんでいただけなんだ



「……よし」

「「?」」


今まで黙っていた俺が急に呟いたからか2人が不思議そうに俺を見てくる
今、言ってしまおう。ありがとう。と
そうじゃないと、きっと、俺は不合格でもしかするともう二度と会えなくなるかもしれない



「あのさ、多分もう無理だろうから、聞いて、くれねぇかな」


誰かに感謝の気持ちをちゃんと伝えたことなんて今まで一度もなかった
その分、言おうと決心したくせに、いざとなったら言葉に詰まる


「無理なんかじゃねぇよ。今からでもきっと諦めなきゃ……!」

「尊さん……」


草薙が尊を止めて、俺の方を見る。それは俺に話をする機会をくれたということだとすぐに理解できた


「……今まで、こんなことちゃんと言ったこともねぇから、上手くいえるかはわかんねぇけど……。……俺はお前らに沢山、教えてもらったと思ってる。多分、人を好きだと思えるようになったことも、人とのつながりの大切さも、本音を話すことも。全部、そんなのもってたって、俺には必要ない、そこにいても嫌われてるだけだって捻くれてた。でも……お前らのおかげでそうじゃないって、わかったんだ。だから……ありがとう」


ゆっくり、はっきりと、文章にはなっていなくても思っている、伝えたかったことを口にした
最初はあんなに嫌で、どうせココも変わらないとまで思っていたのに、こいつらと関わりだして、少しずつ少しずつ、考えが変わっていっていて
なのにそれを認めることがいやで恐くて拒絶して傷つけてきた


「俺は、きっと自分が思ってるほど強くない。本当は、誰かに助けて欲しかったんだ。……だから、俺はお前らに救われたな。感謝してもしきれねぇよ。2人とも、大好きだ」


泣きそうになるのを堪えて、笑ってそう言ったとき、下校時間を告げる鐘の音と一緒に、俺の耳朶からあの水色のピアスがカツンと音をたてて落ちた

ちなみに2人はもう泣いている。なんだなんだ、人のこと言えねぇけど、こいつらも涙もろいなぁ


「お、外れたぞ!ほら見ろ草薙!尊!」

「お、おうっ。良かった……お、俺、冷慈さんが卒業できなかったら、どうしようかって草薙と話してて……」

「本当に良かったです……!心配したんですよ!」

「おう、2人ともありがとうな。すっげー俺、今嬉しい」


尊と草薙の頭をグシャグシャと撫でる。もう髪型はボロボロだ。いやこいつらの顔もボロボロだけどさ
そういう俺も泣かないように、必死なわけだけど


「よくやったな。冷慈」

「ゼウス……」


目の前に現れたゼウスはなんというか優しい表情をしていて、緊張の糸が切れたのか涙が流れ落ちた


「っ、ち、違うからな、これは別に……」

「わかっている。……自分を認めるということは、本当に強くなければ出来ぬことだ。よく2人を守りぬいて、自分と向き合ったな。それは凄いことだ。心配をするな、お前は決して弱くなどない」

「……、う、うるせぇな……。っ、伊達に精神鍛えてねぇんだよボケ」

「これからは、学園に戻り、卒業まで全員で学園生活を楽しむがいい。他の生徒達ももうあのようなことはせん。安心しろ」

「あ、あのさ、ゼウス、のおっさん」

「……おっさんはいらぬ。なんだ」

「ありがとう。俺を信じてくれたから試練をくれたんだろ」


俺の問いにこそ答えはしなかったが、ゼウスは軽く笑って戻っていった





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