守るために


「……なぁ、冷慈さんは、毎日こんな状況だったのか?」


昼休み、誰もいない屋上で尊がそう聞いてきた。
流石に堪えたのか草薙も尊も表情は曇り気味だった


「……あぁ。こんな感じだったな」

「………………私達は、冷慈さんが助けてくれているから、試練だと分かっているから大丈夫ですけど、これに毎日1人で立ち向かっていたなんて……」

「あぁ……俺も考えるだけでゾッとした」


俺は自分が言われることにはある程度の免疫が出来ているからいいが、二人はやっぱり慣れていないのかぐったりとしているように見える


「……ちょっと、待ってろ。俺、売店行ってくるな」

「!1人は危ねぇって!」

「そうです、私も行きます」

「大丈夫。な?お前らは休んでろ。平気だから」


言い聞かせるように、そう言って売店へと歩く。もちろん俺への批判中傷は聞えて来てはいるが、耳にもとめてやらない
カッとなって暴れたら試練もくそもなくなってしまう


「……お茶、3つくれ」

「はいよ。ありがとうございました」


生徒手帳を見せて人数分のお茶を手にして、また屋上へと戻る。
2人とも今日はろくに弁当に手をつけていなかった。それだけならまだしも朝から水分もとってはいないはずだ


「お待たせ………あ?」


屋上のドアを開けると、数人の男子生徒に殴られている尊と、掴まっている草薙が目に入った
カコンカコンカコンとお茶の缶が落ちる音だけが、した


「何、してんだ、お前ら」


やっと出したその声に、草薙が振り向いた


「冷慈さん!」

「……んな、ふざけんなよ!何してんだって聞いてんだろうが!!!」


尊に手を出していた1人を掴み上げる。もう試練なんてどうでもいい
大事なのは、俺の居場所なんかじゃない。尊と草薙の安全だ、ただそれだけだ

途端に、何かが切れたような音が俺の中でして、気付けば俺はいつもと違う格好になっていた
それは、あの妖怪だったときと服装こそ変わらないが、目の色が金に輝き、あの角も生えていない

あぁ、これが、神化、俺の風神と化した姿なのか。


「こいつらは、俺の大事な奴等なんだよ!勝手に手出ししてんじゃねぇ!」


いつもなら吹き荒んでいる風が今日は恐ろしいくらいに吹かない。無風だ
ただ、ただ響くのは俺の怒声ばかりで、きっとこれは暴走をしたとみなされ、もう俺は不合格なのかもしれない


「死にたくねぇなら早く散れ!これ以上好き勝手するようなら、てめぇら全員泥に戻すぞ!!あぁ!?」


近くで聞いていれば鼓膜がおかしくなりそうになるぐらいの大声で叫ぶように言えば、そいつらは全員こぞって、屋上から逃げるように降りていった
それを見てから、俺がまた人間の姿へと戻る


「尊!大丈夫か!?おい!」

「ってて……くっそ、なんなんだよ、あいつら……」

「尊さん!冷慈さん!」


話によると、抵抗する暇もなく、掴まって、あのザマだったということらしい。
本当にふざけている。なんで、試練といえど、そこまでのことをするのか、一体、俺に何を求めているのか

俺にはさっぱり理解できなかった

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