届いた願い

「……っ、な、なんだよ……んなこと言っても、俺は……もう、嫌なんだよ……。俺の周りから人がいなくなることも、何もかも」


狼狽えながら、一歩後ろへと下がる。真剣な2人の思いに戸惑いが出てきだしている
俺は、何を、しているんだろう。という心情だった
信じても無駄なのに。という意味での何をしているんだろう。と、どうして信じようともしないんだろう、という意味での何をしているんだろう。

どっちの意味でもあった


「しねぇよ。絶対。だって、俺は冷慈さんのことを信じてる」

「私もです。だからお願いです、元に戻ってください、冷慈さん……っ」


まるでトドメを刺すかのように告げられたその言葉に何かが切れたような気がして、堰き止めていたものが溢れて頬を伝う


「っ……、ごめ、んっ……信じて、欲しかった……誰かに、誰か、一人でも、よかった、……ただ、一緒に、いてほしかっただけ、だったんだ……!それすら、許されないのに、ずっと、ずっと……っ!!でも……」


そこまで言って、言いとどまる。
今度は黒い感情ではない、ただ、心配だけが降り積もっているんだ


「……でも?」


草薙が続きを言い出そうとしない俺を促してくれる
言わなければ、わからない。そんなことはたった今学んだはずだ


「でも……っ、俺が、俺といることによって、周りまで被害の対象になる、それは嫌なんだ!草薙も尊も、他の奴等だって、大事なんだ……!大事な奴等が自分のせいで非難されるなんて、見てられない、少なくとも俺は、見たくない!」


これは、あんな黒くて酷い感情ではなくて、素直に俺が思うことだった
よく考えればここはゼウスの造った箱庭で、そんな事態になるはずもない、ということくらいはわかるはずが、やっぱりまだ俺にそんな余裕がないらしく考えるよりも先に口が動いている。


そんな時だった


「まだ、そんなことを言っているのか、冷慈よ。まさか、その状態で、己の弱さを認めたというわけではあるまいな?」


ゼウスの声がして、顔をあげると、いつの間に来ていたのか、険しい顔つきで俺を見ていた


「…………今、向き合おう、としてんだよ……!でも!」

「でも、ではない。お前の言っている、それも結局は逃げではないのか」

「!!」


大事な奴等が自分といることで、非難されるのを見たくない。それが逃げだとゼウスは言った


「確かに立ち向かうだけが賢い選択とは言えぬが、お前のその行動は確実に逃げではない、と言い切れるか?冷慈よ」

「……そ、それは……」

「言い切れぬのなら、お前に学園へ戻る資格などない」

「……、わかった」


ゼウスの言い分は確かに否定できない。俺はまたいつもの癖で逃げているのかも知れない。
もう、傷つきたくない。ということを言い訳にして


「冷慈さん!?」

「そんな!」

「戻る資格が、ないなら、俺が逃げなければいいだけの話なんだろ。……簡単な話じゃねぇかよ。俺が、守ればいいんだろ。俺といることによってこいつ等が非難されないようにな」


そう、今、決めたんだ。もう後には引かない。後ろを振り向く作業はもうさっき成し遂げた。自分の過去を見つめなおす作業なら終わったんだ

俺が、強くなればいい。そうすれば、一緒にいて守れば、いい。
逃げる必要なんて、ないだろ?



「……よかろう。そこまで言うならばお前に試練を与えよう。それに成功すれば、学園へ戻してやる。ちなみに、尊はつい先日、卒業資格を得ている。さぁ、どうする冷慈よ」

「……やってやるよ。試練だろうがなんだろうが、負けたりしねぇ」



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