呼ばれた理由
「案内役を呼んでお前を寮まで行かせよう。そこで準備を整え、再び校舎へ来るがいい。……トト、入れ」
あれから俺たちは一度校舎や教室を見て回るように、言われ、その案内役というのが、誰か入ってきた
正直、もうどうにでもなればいいと途中から俺は話を流し聞きしていた
「ずいぶんと遅かったな。待ち侘びたぞ」
入ってきた男は気怠げそうに俺たちを見下した
「その娘が選ばれた女というわけか。それに、その男も」
そいつはまるで俺たちのことを気に入らないとでも言わんばかりに厳しい目つきで足の先から頭までを凝視してきた
「あなたは……?」
「……」
女子が名前をそいつに聞いたはずなのに、でかい態度の男は答えずに代わりにおっさんが俺たちに説明をする
「エジプト神話において知恵を司る神トトだ。この学園では教師の任についてもらう。この世のあらゆる事柄に精通している。神も人間も全てを理解している男だ。分からないことがあれば頼るがいい。お前達の言語を調べ、手配したのも奴だ。実に優秀な神よ」
どうりで、俺たちはギリシャ神話のおっさんと会話が出来ているのか。と妙に納得をしてしまった
だけど、この態度のでかい神様とやらは未だ俺を品定めするかのように睨んでいる
なんだってんだよ、うざってぇ
「しかし、こう見えてこの男……」
「ゼウス、余計な情報はいらん」
おっさんが何かを言おうとしたのをスパッと遮った
おっさんは肩をすくませ、後は任せたと言って出て行った
「お前ら、私についてこい。貴様等の部屋まで案内してやる」
「はい…よろしくお願いします…」
「…チッ」
「待て。満田冷慈。お前には話がある」
おっさんに呼び止められ、立ち止まれば、その隙に女子とトトとかいうのは出て行った
これでやっと、俺がここに呼ばれた理由も分かるのかと軽くため息をついた
なんでこんなややこしいことになったんだ
「なぁ、俺の呼ばれた理由って…」
「そう急くな。…先ほども話はしたが、これからは、この学び舎で神は人間、そして愛を学ぶ」
「…あぁ」
「だが、今の現代、人間は神という存在を否定している者が多いと聞く。お前のようにな」
まぁ、そりゃそうだろう。神様が何かしてくれんなら話は別だけど、神頼みしたって、別に何が起きるわけでもない
まず第一に神社だのお参りだのだなんて、人間の自己満足に過ぎない
「そこで、だ。人間代表として、お前には神を学んでもらう。…つもりだったんだが、事態が急変してしまってな」
「…は?」
「日本神話の風神。名前ぐらいは聞いたことがあるだろう?」
「あ、あぁ…そりゃぁ…」
何か苦虫でも噛み潰したかのような表情で話し出すおっさんに俺は若干押され気味の状態で話を聞く
「奴が、死んだのだ。そこで急遽、風神が必要になった。……奴は死ぬ間際にこう言った。『俺の、羽衣を見つけた奴こそが俺の跡にふさわしい』と」
「羽衣…?」
ふとさっきまで俺が倒れこんでいたであろう場所を振り向き見返す
そこには、海岸で見つけた透き通るような布が落ちていた
「…そう、それだ。それこそ奴の羽衣なのだ。それを、見つけたのがお前、満田冷慈というわけだ。とはいっても、まだ覚醒もしてないようだが。今、お前は人間と神のどちらでもある状態なのだ」
「ちょ、ちょっと待てよ!何勝手なこと…!だいたいおかしいだろ!?神様嫌いな俺に、んなことさせんのか!!」
「だからこの学び舎で他の神と交流をし、神を知れ。お前のような人間が思っている神だけが神ではないのだ。身を持って実感をしろ。だが、もちろん、それを知った上で、断わると言うならば、お前も一年後には元の世界へ返してやろう」
「…悪いけど、知ったとしても変わらないと思うぜ。俺、かなり頑固なんだよ」
「そんなことは実際に交流をし、生活をしなければ分からない。せいぜい一年という猶予を満喫するがいい。……その、羽衣を貸せ」
俺が冷めた態度で接することに何も触れては来ずに、おっさんは水色の布を指差した
少し、迷ってからそれを差し出す。まぁどうせ俺のものではないし、この先も俺は人間でいる方が楽そうだし、その布は俺以外の奴に見つけてもらうべきだ
「ハッ……!」
まるで気を入れるかのようにその布をおっさんが触ればスルスルと布の形が変わっていき、最終的には水色に輝く小さめの輪となっていた
「これを耳たぶにつけておけ。枷だ、万が一のことがあっては困る。お前に覚醒をされてはこの箱庭は持たんだろうからな」
「は?つけるってこんな輪っか、どこに…つうか俺、人間だしそんな力もってねぇから」
そう言いながらも、どうしてもその小さな輪になった水色の布が気になって指で摘んで日に照らして輝かせてみる
「うお、綺麗だな…つうか硝子で出来てんのかこれ。さっきまで布だったのにな」
まじまじと見て気づく。これ、ピアスか?
良く見るとフープピアスとかいうのに形がそっくりだった
「そうだ。そいつはお前の中にある力が暴走しないように抑える働きがある。一度つけると卒業するまでは絶対に外れないようになっているがな」
「へー」
「…それをつけていても、暴走をしてしまうものもいるのは事実だろうが…していないよりはマシだろう」
「ふーん。つけてりゃいーんだよな?」
「あぁ、そうだ」
別に、自分が風神になることを了承したわけではない。でも、こんだけ綺麗なもんをやすやすと手放すのもどうかと思って俺は元々開けていた、左耳の穴に通した
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