メーデーメーデー


「はい。……冷慈さんはどうして山に毎日来ているんですか?」

「ん?あぁ、ここってさ、合宿で使ったろ?」


いざ、話すとなると若干声にだしづらく、明るい話題へと一時的に逃げそうになる
俺の逃げ癖ってもんはどうも厄介のようだ
話したいことはもっと別にあるのに。それでも、ここまで来たのに逃げるわけにもいかず、ひとつひとつ、なるべくわかりやすくなるように話し出す


「俺さ、今まで友達ってもんがいなかったんだよ。だから、部活もやってなかったし、合宿もしたこともなかった。ましてや修学旅行んときですら、楽しい思い出なんかひとつもなくて、共同作業とか、協力だとかチームワークって言葉が虫唾が走るほど嫌いだったんだよ」

「確かに……最初の頃はそんな感じでした」

「だろ?……それがさ、小5から俺にもよくわかんねぇんだけど、ずっと高3まで苛められてて」


やっと本題には入ったものの、ここからが俺の正念場だ
これを話すたびに、そのとき感じていたあの黒い感情が俺を支配していく
つまり、また暴れかねないということだ


「……多分最初は友達とのただのイザコザだったと思う。それがいつの間にかクラス中に広まっていて、最初こそ小学生らしい地味な嫌がらせだった」


細菌のように扱われたり、裏で文句を言われたり、机を放されたり
そんな軽度のものだった


「でも、今まで、4年までずっと仲の良かった親友だと思ってた奴等までが掌を返したように言ってくることが俺はどうしても許せなかった。それは今でも変わらない。本当は行きたくなんかなかった。行っても毎日毎日、貶されて否定されるだけの繰り返しで、楽しいことなんて何一つない」

「……そんな……」

「でも、親は、それぐらいで休んでちゃそいつらの思う壺だっつって休むことを認めてはくれなかった。精一杯、無視をすることを決め込んで、毎日我慢して学校にも行った。中学になれば新しい人も増えるから友達くらい、きっと増える。楽しいはずだって思って」


俺が話している様子をうかがいながら草薙はしっかりと耳を傾けてくれている
でも、今の俺にはそんな草薙を気にかける余裕もないほど、当時のあの悔しさを思い出して、自分でも知らぬ間に拳を握り締めていた


「そしたら中学も何も変わらなかった。変わったことといえば彩詞たちとあったことくらいで、でも、あいつらにはあいつらでちゃんと友達もいた。……俺も友達は作ろうと思ってはいたんだ。でも……同じ小学校だった奴等が言いふらしたんだ、あいつは、イジメられてた可哀想な奴なんだぜ、って。それからは、もう小学校の延長戦だった。通りすがりに名前も知らないような他クラスの奴に後ろ指を指されて、何もしてないのに笑われて。靴は消えるわ、呼び出しはくらうわ……。それでもやっぱり逃げることは許されなかった。助けすら求めることも出来なかった」


どうして、いつも俺は何もしてもないのに貶されなければいけないのか。俺が何かしたならわかるけど、話したこともなければ名前も顔すら知らない奴等が俺を知っていて、聞えるように吐かれる罵倒の数々
どうして、おれなんだ


「それから俺は思うようになっちまったんだよ。俺は何もしていないのにここまで言われて、どうしてこいつらは、害もなくヘラヘラと笑っていられるのか。罪悪感すらないのか。これは人間じゃない。ただのゴミだ。って。人間のグズだって!!」


叫ぶように怒りを露にすれば同時に強風が吹き荒れる。もう知らない、こんな世界は壊れてしまえばいい。そんな昔の感情が今の俺を突き動かす
予想していたとおり完全に自我はない状態だった


「高校をわざと馬鹿高を選んだ理由もおかしかった。"ここで、明らかに自分を嫌うであろう奴等の集まりの中で、勉強で1位をとって全員を見下してやろう。今度は俺が踏みつけてやろう"ってな!でも、それも間違いだった。結局、1位をとってようが、何をどう頑張ってようが、いつもいつも高校になってすら貶され否定されてきた。しまいには、テスト妨害やらなんやらをされて、先公に言っても、見てみぬフリだ。お前の勘違いだ、あいつらはそんなことをするような人間じゃない。そんな戯言ばっか聞かされて、俺は気付いたんだよ。"こんな世の中に神様なんかいるわけもない、いるなら俺だってもっと普通に学生を出来るのに"って。早く、死ねばいい。むしろ殺せばいいのか。毎日毎日、そんなことだけを考えて、耐えて耐えて耐えて……っ」


吹きすさぶ風の中、俺の悲痛の声だけが響いていた。
もう嫌だ、あんな世の中消えてなくなればいい。善が潰され、悪が生きているようなそんな腐った世の中なんてもうこりごりだ

消えて、なくなれ。邪魔だ必要もない。世界なんか消えたところで誰も悲しみはしない。
むしろ人間という私利私欲に塗れたものが必要ないのだ


「冷慈……さん……」


(知らぬ間に妖怪の姿へと成り果てた俺を見て、草薙は俺を見捨てるだろうか)



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