考えても暗闇
あれから何日がたったかわからない。俺は未だにどうして、あーいう場面に遭遇すると無関心になるのか、答えが見出せていなかった
当然、そんな状態で謹慎が解けるわけもなく日々だけがただ過ぎていく
もうあっという間に季節は冬だ
「何してんのかな。草薙と尊」
草薙は学園に行っているのはわかってはいるが、尊とはあの日以来会ってもない
俺は寮の自分の部屋か、山にしかいないせいだろうか
食堂を使ってれば会う機会はあったかもしれないが、生憎俺は自炊派だから行くことがない
「…………今日もいい風だな」
山の中のひとつの木に登って、風が吹くたびに揺れる木々を見つめる
木漏れ日も差していていい感じだ
(もう、ここで生活すっかな)
ここなら誰にも会わない。つまり無駄な感情を持たずにすむだろう
黒い感情にこれ以上飲み込まれないようにするにはそれも得策なんじゃないかと思えてくる
(……でも、な)
そこまで考えてふと思う。これじゃ俺は向き合っているということにはならないんじゃないのか、と
また、逃げているだけなんじゃないか、と
なんだか、この山にいると不思議と背中を押されるような感覚を感じる
戻りたいなら、人間らしくなりたいのなら、前を向くしか方法はないんではないのか、と
確かに今のままのほうが楽かもしれない
本当にここにずっといれば誰にも会わないし、好きなことをすればいい。おまけに誰も傷つけることも無い。悪夢のようにならずに済む
でも、それじゃあ楽をしているだけで、本当に向き合っていることにはならない
向き合うことで、必ずいい方にいくとも限らないけれど、このままずっとこうしていても、何も解決はしない
本当に何年か振りに俺は前を向くことを決めた
久しぶりのその感覚に、これで間違っていないのか、という戸惑いはあるけど、やってみるしかないんだ
向き合うことによって悲劇になったとしても、やって後悔するのと、やらずに後悔するのは天と地ほどの差がある、と前に柊さんに聞いた気がする
(……よし)
スタっと木から飛び降りて走って、山を駆け下りる。合宿のおかげで持久力が大分ついていたらしく、俺が息を切らすことはなかった
まぁ、まず何をすればいいのかなんてまだ考えてないが、ただ向き合うための、前を向くための方法を探すことから始めようと、思った
(向き合えば、なんであんなときに俺が見て見ぬフリをしたのかもきっと分かってくるはずだろ。やるしかねぇんだ)
もう、これ以上俺の居場所を無くさないために
「きゃ……冷慈さん!?」
「っ、く、草薙!?何してんだこんなとこで!」
やるべきことが、やっと分かって急いで降りていく途中、草薙が山へ入ってきていて思わず急ブレーキをかける
おっと、危ねぇ、草薙巻き込んでコケるとこだった
「あ、あの!宋壬さんに、冷慈さんならいつもここだと聞いて……。お話がしたくて、来ました」
逃がすまい、としっかり俺の目を見て話してくれている草薙を見て、俺がハッとした
そうだ、これが"前を向く"ために必要な一歩なんじゃねぇのか?
前を向く前に、後ろを振り返る。
今まで自分が通ってきた道を、知って、それから進むべき道を決める
「丁度よかった。俺も、話したいことがあんだよ。……あーっと……流石に地べたに座るのは、きついか?」
「いえ、大丈夫ですよ」
「そっか。じゃあ、ここで話すか」
「はい」
今から話すのは俺が大嫌いな現実の話。
向き合うためとはいえそんな話をするんだ。もしかするとまた荒むかもしれない
俺は自分の感情にすぐに流されてただでさえ自我を見失いやすい
それでも、俺は、前を向きたい。もう居場所は無くしたくない
(例え、俺が暴れようとも、きっと草薙なら止めてくれる。そんな気がする)
[ 51/82 ][*prev] [next#]