下った先に後悔あり

「面倒ばかり起こすな。骨にひびが入っている」


無心だった俺はいつの間にか、学園の保健室まで自分の足で降りてきていたようでそのトトの声に意識を戻された


「……おれが神化して、こいつにケガさせちまったんだ」

「違います。尊さんのせいじゃなくて……」

「痣を見ればどんな力が加わったのか分かる。言い訳は通用しない」


そういう、会話が聞えても、ただ聞いているだけで、なんとも思えない。なんだろう、本当の意味で無感情になった感じだ、今の俺


「尊、冷慈、今すぐ学園長室に来い」


どこからともなくゼウスの声が鳴り響く。スピーカー等ではなく、どこからともなく、ゼウスの声が聞こえてくる
それは確かに俺と尊の名前を呼んだ


「……」


呼ばれた瞬間に、即座に俺は学園長室へと足を向ける。


「行ってくる」

「待ってください!私も行きます」

「私も行こう。一応私の監視の元起きた事だからな」


後ろからそんな声が聞こえるも、俺は後ろを振り向かずにまた一人、さっさと歩いていく。目指すは学園長室だ

学園長室に着くと、トトがゼウスに事情を説明する


「尊は以前にも同じような問題を起こしたのを忘れてはいないな?」

「……………」

「尊さんを叱らないでください。彼は私を助けるために……」

「これはお前が口を挟む問題ではない。冷慈、お前もだ。未だに己の酷さに気付いていないようだな。それでは前と何も変わってはおらん」

「…………酷……残酷、さ……」


頭の中で、あの悪夢が蘇る。俺は、あんなことをするんだろうか
あれは本当に俺なのか?それとも、俺に似ただけの何か別物なのか

考えてもわからない、でももしあれが俺だったら確かに残酷なことをしている


「暴走し、勝手な神化をしては、他の生徒に悪影響を及ぼす可能性がある。尊と冷慈が反省し、自分の非を認めるまで学園への登校を禁ずる。剣道部も空手部も廃部だ」

「そんな!それはあんまりです。謹慎の上に、廃部なんて……」


草薙が俺達を庇うように抗議をする。でも、俺はもうそんなことはどうでもよかった。
元々、来たくて来たわけでもない。だから、別に……


「……わかったよ。やめればいいんだろ、全部。…………くそっ!!どうせ、おれはいつだってそうだ」

「尊さん!!」


翻して、去っていく尊の背中は俺達を拒んでいるようにも見える。
なんだ、さっきの尊の言葉が、また俺の頭の中でリフレインする
それは次第に、俺の思考すらを朦朧とさせてくる


そうだ、どうせ、言ったところで、何も変わりはしない。今のままの俺を認めてくれるような人間も神様もいないのだ

それはまるで尊の感情に、共鳴したかのように、溢れ出てくる俺のあの黒い感情そのものだった



「っ、う……っぐ、あ……」

「冷慈さん!?」


意識がなくなりそうになるほどの、強い頭痛を感じて思わず頭をおさえてフラつく
草薙が驚いてかけよってきてくれるが、それどころじゃなかった


『誰も、理解なんかしてくれねぇよな?俺がどんだけ真剣に言葉を言ったところで、あざ笑われるのが、オチだもんな』


脳内に木霊する俺ではないはず、の俺の声を最後に、俺の意識はまた黒い感情に飲みこまれていった




「…………」

「っ、冷慈……さ、ん?」

「……なんだよ」

「目、の色が……」


頭痛の引いた、俺の顔を見るなり草薙が驚いたように後ずさる
ゼウスとトトも、驚きと険しさが混ざったような顔で俺を見ている


「……これは厄介なことになったかもしれん」

「あぁ。あの目の色は妖怪となった風神のものと同じだ。それだけならまだしも、枷が黒光りしている。草薙、彼奴を教育し、元の姿へと戻すのだ」

「え!?で、でも……どうすれば……」

「……恐らく、あの奇人は何か奥深い闇を抱えているのだろう。ぺけと同じように、いやそれ以上かもしれんがな。それを、克服させる以外に方法は無かろう」

「……克服、でも、どうやって……」


(まずは、本心を探るところから始めないと何もわからない)



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