純粋≠戸惑い
飯の後、俺は普段からしているから。というのを理由に、食後の後片づけをもくもくとしていた。道場では尊と草薙がまた練習を再開していて竹刀の音が聞こえている。
「本日分は執筆終了のため、月を見に行ってきます」
「おー!気をつけろよー!」
そんな中、月人の声が微かに聞き取れたので、月人に聞こえる程度の音量で返事を返す。
そのあと、すぐに出て行ったのが、物音でわかった
月の神様ってだけあって、やっぱ月を見ないとだめ、とかなんだろうか
「そろそろ終わりにしとくか。合宿はまだ始まったばっかだしな」
「そうですね。初日から結構頑張ったと思います」
「疲れたーーーって感じんの、なんかすげー新鮮だな」
食器を洗いながら聞こえてくる会話にフッと笑みがこぼれる
なんだあれ。どこのカップルだよ。と内心でツッコミを入れながら、淡々と食器洗いを続ける
もちろん、聞こえている会話には耳を澄ませてるけど
「体を動かすのって気持ちいいですよね」
「だな……悪くねぇよ。うん」
「私、尊さんと一緒に部活が出来て楽しいです」
「楽しいって……剣術に楽しいって気持ちはいらねぇ。けど……1人よりは悪くねぇのかもな。一緒に鍛える相手がいると自分のこと、なんか冷静に見られるしよ。あ、そうだ。冷慈さん、手伝いするぜ」
話を聞きながら、黙々と作業をしていたらもう終わりがけだった
このタイミングで現れた尊に大丈夫だと告げてそのまま素早く終わらせた
「月人さん、戻ってきませんね。そろそろ就寝の時間ですが……」
時計を見て、確かにもうそんな時間か、と納得をする。あんまり帰ってこないと俺まで心配になる
「あー、あにぃならいいんだ」
「「……?」」
「あにぃは朝まで月を眺めんのが習慣なんだよ。人間になったからってそういうの変えれねぇからさ。だから先に休もうぜ」
あぁ、なるほど。目的は違うにしろやっぱり宋壬と同じで夜型の人間……いや神様だったのか、と納得をする。それなら多分問題はねぇだろうしな
それから各自、風呂につかって、寝る準備を整えようとしたときだった。
草薙がポツリと呟いた
「布団が1組しかない……」
「は?」
思わず俺も確認をとるが、どう見ても布団は1組しかなかった
まぁ、俺は布団はなくても問題は微塵もないが
女子としてはよくないだろう。といっても、よくよく考えれば、多分この合宿の準備だってしたのはあのゼウスなんだろう
つまりこれぐらいのこと、ハプニングのうちにも入らない。という認識にしておけば問題は何ひとつないはずだ
「別に何の問題もねぇだろ。おれは布団なんていらん。おまえが使え。あ、でも冷慈さん……」
「いや、俺もいらん」
「そういうわけにはいけません、申し訳なくなって逆に眠れなくなってしまいます」
「じゃあ、どうすんだよ。一緒に寝るわけにもいかねぇだろ」
「一緒に……!」
「おれは別に構わねぇが、おまえが困るだろ。だから、大人しく寝とけ」
やっぱり純粋のようで一緒にという単語で草薙が慌てふためいている。なんて面白いんだ純粋って。
俺なんか実際問題、じゃあ一緒に寝ろって言われたらあっさり寝るし、緊張も何もしねぇんだけども
あれ?俺、もしかして男として終わってる?
「まぁ3人はどのみち無理だし、俺は生憎そう簡単に体調はくずしたりしねぇし、ましてや今は夏だからいらん」
とりあえず、俺は布団が不必要だということを言って、端のほうで寝転がった
「え!じゃあ、掛け布団と敷布団を分けて使いましょう。それを並べて敷けば月人さんが帰って来ても寝るスペースも出来ますし」
「おもしれぇな。布団くらいで、そこまで考えるなんて。でも、そうだな。おまえが言うならそれが正しい。な、冷慈さん」
寝たふりをしている俺に確認をとってくる尊
だがよく考えろ2つ並べたところで、4人は厳しいぞ。どう考えてもギリギリだ
「……あぁ。正しいな。でも!俺はここで寝る。2つ並べたとしても4人は厳しいぞ。つーわけで、お休み」
そそくさとまた寝た振りをする。そうだ、俺は眠いんだから起こすことなく、勝手に寝てなさい
「……じゃ、布団敷くか」
「はい」
やっと諦めたのかガサガサと布団を敷きだす音がする。よしそれでいい
まぁ、俺はともかく2人に風邪なんか引かれてもなんでか、困るのでこれでオッケーということなんだが
「っしゃー!完成だ。さぁて、寝るか俺達も」
ドサッという音がした後に割りと近いほうからも横たわるような音が聞えた
多分、いや確実に尊がドサッってやつでそのあとが草薙だろう
「なんでそんなとこで寝てんだ?もっとこっちこいよ。布団広げた意味ねぇだろ」
「えっ……でも」
「なんだ?おれのこと信頼してねぇのか?」
「そ、そういうわけでは……」
「じゃあ、いいじゃねぇか。何もしねぇよ。おまえの嫌がるようなことは。やましい気持ちがあるならこんなこと言わねぇだろ?」
尊と草薙のやり取りを耳にしながら、2人のほうではなく、壁と向かい合わせな状態で、俺は自分の手の甲を力いっぱい抓って、唇を噛み締めて笑いに耐えている誰か助けろ
「まぁ、近づくのが嫌ってんなら無理言わねぇけどな。とにかくゆっくり休んでほしいんだ」
「嫌じゃ……ないです」
「おう、それはよかった。おれはもう寝るぞ。おやすみ」
「おやすみなさい……」
多分、2人が寝てからも俺は落ち着いたものの地味な笑いに耐えていた
(こんなに純粋な会話、あんのか。すっげー面白かったな)
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