神様ごとき


「あなたが…私達を呼んだんですか?」

「お前達は何も言うな。考えるな。必要なことはワシが全て話す」


何もかもを知っているという目をしておっさんは言った。
横では女子が、頷いて、おっさんからの言葉を待っているようだった
俺は、何も言う気にもならず、ただ睨みつけながら、待つことしか出来なかった


「草薙結衣、満田冷慈」


不意に教えてもいない名前を呼ばれてこれは立派なプライバシーの侵害だと悟った
未だに睨んでいる俺をよそにおっさんは話を続け出す


「お前達をワシが創造したこの箱庭へ呼んだのは、我々の計画に参加させるためだ。神を学び導く『神の学園』に」


そういった、おっさんの顔は真剣だった
でも俺にはどうにも理解しがたい話だ


「ギリシャ、日本、北欧、エジプト……数世紀に一度それらの神話の代表が集まり、世界の平安を保つための会議が開かれる。様々な問題が上がり、長い時をかけて議論が行われた結果……現代の神々の領域である天界と人間界の繋がりの希薄さには憂うべきものがあり、近い未来に問題が起こることが予見された」

「…問題?」


俺がそう続きを促せばおっさんは相変わらず真剣な顔で俺と横の女子を見て、再度口を開く


「人間には到底理解の及ばぬ次元の話だ。とにかくそれを解消するためにはお前達の力を要求し、対策を取らねばならん。しかし、現代の神では解決出来んまでに問題は進行している」


それを聞いたとき、正直、それじゃあ神もくそもあったもんじゃねぇなと思ったが
どうも、口が開かなかった

このおっさんを前にして、どうにも、俺は相手が神様だと把握をしてしまっているようだ


「そこで過去に人間や愛に対する考えで特に問題を持っている神々を呼び出し、教育することが決まった。人間とは何か。愛とは何か。それらを奴等に理解させ、現状を改善させるというわけだ。我々は人間を真似て学び舎を作り、神を生徒として教育を行う。
さらに、より人間を理解させるために人間の代表も入学させることになった。その人間こそが他ならぬ、草薙結衣。お前なのだ」

「代表…?この私が……?そ、そんなこと私には出来ません!」

「不安に思う必要はない。お前は『天叢雲剣』に選ばれた人間なのだ」

「あまの、むらくものつるぎ?」


おっさんの視線の先には女子が持っている剣があった
それはいいとして、この女子が人間代表ってんなら、俺はいる必要が無いんじゃないか
そんな考えが脳内であふれ出した

一体俺は何のために呼ばれたのか。そればかりが気になっていた


「この剣が、『天叢雲剣』?」

「お前は唯一、その剣を扱うことの出来る人間なのだ」

「え、ですが…あの、彼は…?」


俺が脳内をグルグルと回していると女子が俺の方をむいてそう言った


「あやつには、逆のことをしてもらう。この学び舎で神のことを学び、理解する。…そして、あやつが、風神に選ばれたことを自覚してもらいたい」

「…は?」


おっさんの俺に向けられた目はさっきよりもずっと真剣そのものだった
嘘をついている目じゃない
事実だ、と頭が判断を下す


「まぁいい。お前はあとでワシが詳しく話そう。」

「…あの、ゼウス様。彼のことは、私ももっと聞きたいところなのですが…その、これはさっき見つけたばかりで……どんな剣なのかも私は知りません」

「その程度のこと問題ではない。説明するよりも実際に使えばわかるだろう。剣をこちらへ出せ」


俺のことは後でと、放りやられ、おっさんは女子が差し出した剣に指先を当てた
すると、その剣は姿を変え、その女子の掌に納まるほど小さく、ペンダントのようになっていた


「お前の運命を左右する重要な剣だ。常に持ち歩いていろ」

「あ、ありがとうございます」

「お前に与えられた猶予は一年。それまでに満田冷慈を合わせた生徒10名を卒業に導け。任務を無事に終えれば元の世界に送ってやろう」

「一年間は全く家に戻れないんですか?」


横の女子が現状を把握しようと一生懸命におっさんに聞いている
それは俺も気になっていたことだった。
俺が、生徒側なのはまぁ、後から聞くしかないんだろう


「お前の不安は無意味だ。どれほど過ごそうが時間の神クロノスの力さえあれば召還した瞬間にお前を戻せる。箱庭の空気に触れている間は不老でもある。つまり任務を終えたお前は何もかも最初の状態へ戻ることが出来るというわけだ」


おっさんは俺と女子ではなく、女子にそう言った


「何も心配することはない。お前は神を卒業させることに注力しろ」

「神を卒業、ですか…でも、具体的にどうすれば……」


横でとんとん拍子に話が進んでいくのを俺はただ、聞いているしか出来なかった

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