器用と不器用


俺がひたすら筋トレ、尊が素振りをして、クタクタになった草薙が戻ってきたときのことだった
何か陶器のようなものが割れるときの音がして、何事かと、月人のる台所を不安になりながらものぞいた


「おい、あにぃ。……大丈夫か?」

「月人、怪我してねぇか……?」

「平気です」


うまそうな匂いはしてはいるが、見るからに料理とはいえない。
またしても野菜を床へ転がす
これには俺が我慢ならなかった


「あぁぁああ!俺!俺が拾うから!」

「あにぃ、おれが拾うから!」


俺と尊が声が重なるだけならまだしも、二人で転がった野菜を拾う様は愉快だろう
いや、それにしてもこれはひどい。そしてぶっちゃけたことを言おう、草薙は多分女子だし、出来なくはないだろうが、月人がこれならきっと尊も出来ないだろう。
二人とも普段から料理をしている様子はない


「あにぃ、そこは危ねぇって!それは、おれがやるから」


尊が竹刀を手放し包丁に持ち帰る。いやなんだ、俺の予想は当たりそうだ
現に、初めて包丁を持ったようで、ものすごく見ていて不安になる


「尊さん、私がやりましょうか……?」

「いや、いい。おれが手伝うって言ったんだ。おまえは休んでろよ。疲れただろ。こんなの、敵をぶった斬んのと一緒だろうし。……こうか?うおっ」

「あぁぁ!待て尊!それは俺がやるから!俺が!」


尊はあろうことか、包丁を振り上げ、まっすぐ振り下ろした
慌てて、止めに入って包丁を奪うようにとる
これはだめだ。ダメだ。合宿で怪我したら元も子もない


「え、え、あ、お、おう……」

「お前らは黙って部活してろ!飯は作ってやるから!全くんな危ない手つきでやんじゃねぇ!」


さっさと道具をだして、飯を作り出す。その様子を唖然として尊と草薙が見ている
月人は文芸部の活動をしに行った


「い、いや、やっぱりおれ、手伝うぜ!すると言ったらすんだよ!」

「……ま、まぁできるようになっといて損はない、か……?草薙は休んでろよ?さっきのでだいぶん疲れてただろ」

「え、じゃあ、あの、見ててもいいですか?」

「?そらいいけど……いいもんじゃねーぞ」


そう言って、とりあえず、包丁を尊に手渡す。あとは尊に俺が教えるだけだ。多分、材料を見る限り、月人が作ろうとしていたのはカレーだろう。
まぁ、カレーならだれでもできるもんだし、失敗はしない


「ほら、しっかり持てよ?んで、こうゆっくり、トン、トンって落とすだけでいーんだよ」


尊の後ろから手を回して、一緒に包丁をもつ。まるでチビに教えてるときみたいだと思ってしまう
実の妹は残念なことに、見た目だけ今時女子だが、料理はしたがらないので、教えてもない

(なんか……弟みてぇ)


「っ、っと、な、なんだ、こんな斬り方したことねぇけど……」

「まぁ、そうだろうな。縁がなさそうだしな」

「冷慈さん、料理がお上手なんですね」


草薙が、意外そうな声で言ってきた。目は離せないが、多分表情まで、意外だと言わんばかりなんだろうということは想像はつく

まぁ、俺のこの見た目で料理が好きっつうのも珍しいんだろうけど


「作るのは好きだからな。草薙は?」

「わ、私は……あまり得意では、ないんですけど……」

「へぇ。いーんじゃねーかな。俺の妹、莉子いるだろ?あいつ全く出来ねぇから」



(やっぱりここは俺の居場所だと思っていたい)


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