山修行in the 箱庭

「……あっちー……」


夏休み初日から草薙の言ったとおり俺の謹慎処分は外されていたようで、今では自由に出入りが出来る。
もちろん、俺はそうなっても部屋から出ていないが

ただ


「おい、お前は行かなくて良かったのか。ご熱心に誘われたんだろ。草薙に」

「……柊さん。いいんだよ。別に。合宿とかめんどせぇ」

「そのままじゃお前は卒業の見込みもないらしいけどな」

「……行ったからって枷が外れるわけでもあるまいに」



最近は、柊さん、グル兄、哀詞、宋壬、彩詞が代わる代わる俺の部屋へ遊びに来てくれる
おかげで、暇ではなくなった
まぁ、誰も言うことは同じで合宿はいいのか、ということだった

彩詞は哀詞と二人で気ままに卓球部をしていて、宋壬は一人で美術部らしい
そのせいで、合宿と言うよりはいつもと変わらないんだとか


「そんなことは行ってみねぇとわかんねぇだろ?ほら、俺の甥っ子なら行け」

「いやいや、どいうことよ、それ」

「枷ぐらい、すぐ外れるだろ。行け」

「嫌だ」

「…………」


柊さんが無言でサングラス越しにジト目で見てくる
はい、はい、すいません。俺が悪かったです。言葉には出さずに慌てて、合宿に行くために着替えることにした

俺の叔父さんはキレると何するかわかったもんじゃない
ただでさえ、見た目が見た目だ。完全に元ヤンだということを物語っているのだ、見た目が

金髪のオールバックに茶色のサングラス。私服はまぁ、年相応……だ、と、思いたい


「手のかかるガキだな。お前」

「元ヤンおっさんに言われたくねぇ……」

「あ?」

「すいませんっした」


ひとまず必要最低限の荷物を持って逃げるように窓から飛び出した
あ、今回は脱走じゃねぇからきちんと靴もあるぞ

さて、聞いたところによると、山で合宿をするということだったな。
深呼吸をして一歩を踏み出す。あの脱走以来外を歩くのは久しぶりだ


「はー、山っつうか森だな。落ち着くわ」


マイナスイオンとやらを感じるぜ、とか馬鹿な事を思いながら上へ上へと登っていく
あぁ、どこまであんだよこの道。きっついぞ、馬鹿野郎

やっとの思いで合宿所らしきところに着いたものの若干、中に入ろうか、戸惑っていた
まぁ、ここまで来てしまって今更戻るのもおかしい話か、と考えを改めて、勢いに任せて中へと踏み込んだ


「おい!来たぞ!」

「寝ぼけたこと言ってんじゃ……ねぇ……え、冷慈さん!?」

「話してる途中邪魔したな。合宿なんだろ、ちょーっとばっかし気が向いたから来ただけだ」

「冷慈さん……!来て下さったんですね!」

「柊さんからの雷が落ちる前に、と思ってっていう理由だけどな」


小さくため息をつきながらそう言えば草薙は苦笑をしていた
尊はまだ状況を把握できていないのか目をパチクリとさせている。
なんでかいる月人はただじっと俺と草薙を見て、何やら理解したような表情になった


「つまり、草薙結衣が、満田冷慈を事前に合宿に呼んでいた、ということでしょうか?」

「はい、そうなんです。でも、来てくれる気配すらなかったので、お伝えしなかったんです。すみません」

「俺は構いません」



未だ急にあらわれた俺を見て、止まっている尊の顔の前に手を振ってやる
こいつ、意識が飛んでるんじゃないんだろうか、と心配になった


「おーい?生きてるか?」

「……ハッ……え、えっと、生きてるけどよ、謹慎処分は!?解けたのか!?」

「誰かさんのおかげでな。悪いな、今まで心配かけて」

「い、いやいいんだ!ちょっと、いやすっげー驚いたけど、冷慈さんが来てくれて俺も嬉しいぜ!」


尊は手に竹刀を持ったまま本当に嬉しそうに笑った
これは、なんというか、来てよかったかも知れない。思っていたよりも憂さ晴らしというか黒い感情を忘れることが出来そうだ

誰かと一緒にいるだけで、こうも違うもんなんだろうか


「よし、んじゃ早速準備しようぜ。草薙、早くしろよ」

「は、はい!」


どうやら早速こいつらは剣道の試合をするらしい。
準備をしている二人を見ながら、ふと思った


「……なぁ、草薙、最初の一戦だけ、俺と変わってくんねぇかな」

「え?」

「冷慈さん!空手はいいのか?」

「あぁ、元々俺一人だし、あれはいつでもできる。……ちょっと面白そうだな、と思ってさ」


元々、武道好きの俺には興味のあるスポーツのひとつだった
そして草薙に竹刀だけを借りて、防具は付けずに、柔軟だけをしっかりとしておく

武道っていうのは、結構フットワークが大切で、足取りも軽くないといけない
俺はついさっきまで謹慎処分で閉じこもっていた身だ
しっかりしないと、きっと、体のあっちこっちを痛めるだろう


「そういや、思ったんだけどさ、尊と俺で戦ったあとに、草薙、俺ともしねぇ?」

「冷慈さんとですか?」

「あぁ。俺は剣道はちゃんとは出来ない。けど、武道として見るとお前等よりも長いことしてる。種類は違っても、基本のフットワークから立ち方は同じようなもんだし、第三者が見て弱点を言えば、結構痛いところをつかれて、自分の鍛えどころがわかったりもするしな」

「おぉ……!流石冷慈さん……!」

「なるほど……そういうものなのですね、勉強になります」

「それじゃあ、お願いします」




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