知られたくない感情
あれから何日もたったが、どうやら気づいたら、学園は夏休み目前らしい
「冷慈さん!聞こえますか?」
ドアの向こうから草薙の声が聞こえた
聞こえていると言うように軽くドアを叩いておいた
「明日から夏休みなんです。それに、合宿も待ってるんです。よかったら、ご一緒しませんか?」
「……謹慎処分だけど俺」
「ゼウスさんなら説得してみせます!それに柊先生も協力してくれているので明日には謹慎処分も解けそうなんです!もし、気が向いたら来てくださいね」
「……気が向いたら、な」
そうは口では言ったが実際は、あまり行く気ではない。
この間の一件が俺の中で引っかかっているせいだろう
草薙の足音が遠のいていくのを聞きながら俺はドアに凭れるように座り込んだ
あれ以来なんだか地味に俺の中の黒い感情が渦を巻いている
今、顔を見てしまったら本当にあのとんでもない悪夢のようなことになってしまいそうで、怖くて恐ろしくて、ただ、ただ自分を押さえつける
「……ごめん、草薙……せっかく来てくれたのに、説得だってしてくれたのに」
もう外にはいない草薙に向かって小さく呟く
分かってる。逃げてただけだと
あの悪夢も、恐怖から受け入れてないだけじゃなく拒絶していることも
「……ありのままの、自分……」
あの時の草薙の言った言葉がリフレインする
どうして、あいつらはあんなに真っ直ぐで、純粋なんだろう
見ていて苦しくなる。あんな奴等が、現実で俺の近くにいてくれたら、きっと俺もこんなに歪まなくてすんだろうに
「……っ、辛い、な。理解されない、思考も……過去も何もかも」
あぁ、目頭が熱い。視界が霞んでいく。
あんなに、虐められても何も思わなくなっていた俺も、まだ、泣けるのか
「尊……っ、草薙……っ、ごめん、ごめんな……」
頬を伝ってしたへと落ちる涙すら汚い気すらした
どこまでも他人を陥れることしか出来なくなった俺が流すような、それが綺麗なはずもない
諦めたんだ。抵抗することも、自分から打ち解けに行くのも。
それが意味のない行為だと思い知らされた
思えば、小学生高学年から続く陰湿な虐めとやらに、親からの負けるなという重圧
姉ちゃんのあっけらかんとした態度、妹の他人を配慮しない発言。全てがストレスだった
それでも必死に頑張って生きてきた
やっと、ここで、それが、報われたのだと俺は勝手に思っていた。のかもしれない
(それが思い込みだとしても、ここを俺の居場所だと言ってもいいだろうか)
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