乱暴者と崩落者
中庭のベンチに腰掛けている2人を物陰に隠れながら観察をしているなう、です
と、いうような明るい雰囲気ではないけども
「乱暴者と言われても仕方がない。……また人を傷つけた。自分でも自分が止められない。どうしておれはいつもこうなんだ……」
その尊の悔しさに塗れた言葉は俺をもハッとさせた
自分でも自分が止められない。それは分かるかもしれない。
俺も謹慎をくらうきっかけのあの出来事のときは、俺の場合は止められないはおろか、自分を見失っていた、というものにも近かった
「そんなに自分を責めないでください。尊さんは確実に変わってきていると思います」
「……そんな気休めはいらない」
「気休めなんかじゃありません。ロキさんに挑発されたときは気分が高まり神の姿になっていました。でも、今は違います。それに今回は助けてくれました。確かに乱暴な振る舞いでしたが、私を守ってくれたんですよね?」
草薙の問いに尊が無言で頷いた
あぁ、そうか。草薙を守るためのあの行動だったのか
今やっと点と点が繋がった感じがした。それと同時に何か黒い感情が俺の中で渦巻いた
俺は、あのとき、本当にあの女子生徒を助けるための行動だったんだろうか
元の世界にいたときの腹いせだったんじゃないのか
もしそうなら、俺と尊の行動にいたった差というのは大きい
「あの時の尊さんと今の尊さんでは全然違うと思います。ただその変化にまだついていけていないだけなんです」
「変わってきてはいるけど、それを受け止められていないってことか?」
「そうです。私の場合は環境でしたけど、ここに来たときはそうでした。人間の世界では、人生の岐路に立たされていてどうしたらいいのかわからなかった。それだけで不安でいっぱいだったのに、さらに神様の世界に迷い込んで……もう何がなんだかわからないくらい混乱しました。でも、そんな状況に追い込まれて変化を受け入れざるを得なくなった。ここでは、ありのままの自分を曝け出さなくてはいけなくて、本来の自分を知ることが出来た」
「ありのままの……自分。確かにまず自分を知らねぇと変化さえも気付くことは出来ねぇな」
そう、かもしれない。草薙の話を聞いていて俺も思った。でも、俺には難しい話だった
ありのままの自分がどれかも分からない。つまり本来の自分を知るということが分からない。
「最初は変化することが恐かったんです。全てを失ってしまいそうで。でもその不安さえも変化している、成長している証拠なんだって思ったら少しだけ強くなれた気がするんです」
「ふっ……おまえの言う通りなのかもしれねぇな。神も人も自分のことが一番わからねぇんだろうな。だからこうやって誰かと一緒にいて確かめあいてぇんだな……」
誰かと確かめあいたい。それもまた俺には理解できない、発想だった。なんでって言われれば、自分のことなんて、結局は自分しかわからない。
いや、自分ですら自分がわからないのに、他人のことが分かるわけもない。それが精神的なものであれば尚更だ。
人間だろうが神様だろうが、嘘を言ってしまえば、もう分からなくなるんだから
「おまえ……呆れたろ。こんなおれで」
「そんなことありません。助けてくれてありがとうございました。尊さんが来なくても、自分で倒していたかもしれませんよ?」
「ほんとに殴りそうだな。こえー、こえー。おれも殴られねぇようにしねぇと。……殴る、といえばさ、冷慈さん、だよな」
突然聞えた自分の名前に思わず硬直した
何を言われるんだろうか。また、あの時の表情のように、怯えられるんだろうか
いや、それでも構わない。俺は元々そういう奴だった。
「……はい。大丈夫でしょうか。たまに窓のところにいるのは見かけるんですけど、謹慎処分が解けてないみたいで」
「……、おれ、思うんだよ。きっと、冷慈さんにも事情があんだろーな、って。おれの話を聞いてくれたとき、すげーわかってくれて……。あんな優しい人が、あぁなるんだもんな」
「……そうですね。いつも、最初は嫌そうな顔だけど、助け舟も出してくれますし……。あの時、私と尊さんを見たときの冷慈さんの顔が忘れられなくて。なんだか、怯えているような……」
「……あぁ」
自分が思っていたものとは真逆のその会話に、戸惑いを感じた
俺が、優しい?それはきっと何かの間違い。というより錯覚だ
優しい奴はあんなことはしない。
それに怯えていたわけでもない。そうだ、俺は今更他人が俺を捨てたとしてもそんなこと、もう慣れてる
現実なんていつもそんなもんだった
「……おまえがよければもう少し付き合ってくれ。卒業までな。冷慈さんのこともあるし」
「……尊さん。もちろんです。これからも部活頑張りましょう!冷慈さんのことは謹慎処分が解けるようにゼウスさんに掛け合ってみます」
「おう」
(戻りづらい。もう少し隠れてるか)
どうして、ここまで気にしてくれているんだろうか。あんな怯えた顔をしてたのに
俺は二人が中庭から退いたのを見て、ゆっくりとまた、寮の自分の部屋へと戻った
(ありえないだろ。俺が信用されてる、なんてことは)
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