悪夢との鬼ごっこ


気付いたら俺は何もないただ広がる白だけの面白みのない世界に浮いていた

(いよいよ死んだか……?いや、でも死んだら人間必ず最初は地獄にいくんだっけ)


じゃあここは地獄なのか、イメージと随分違うな。そんなことを思いながら滑稽にもフワフワと浮いて漂っていると、どこからかものすごいほどの罵倒とえげつない音が響いてきた

そっちへ進めば、赤目で額から鬼のような角を生やした何かが、酷く冷酷な目で下に積み上げられた死体を見下し笑っていた


『因果応報ってやつじゃねぇの?かっわいそうになぁ』


「……俺?」


それは見るからに、俺に限りなく似た容姿をしていた
俺が赤目になって角でも生えたらあんな感じなんだろうか。いやはやかっこいいと思う

向こうは俺のことは見えてないらしく、息もしていない死体の山をただ冷酷に嘲笑って踏みつけてから消えた


「なんだ、あれ……」


見てて、いいものではない。はずなのに俺はなんでか好奇心に勝つことが出来ず、そいつが立ち去ったその死体の瓦礫の山に近づいて行った
その中のひとつ、赤に染まったその死体をくっと持ち上げる


「っ!!う、わっ……!?尊……?」


つーと背中に冷や汗が伝う
赤に染まっているせいで気付かなかったが、これはどう見ても、尊だ
それによく見れば他の奴らもいる


「……ち、違う、俺じゃない、俺じゃないはず……だ」


だって俺は人間で、あんな化け物みたいな容姿になんかなれるわけもねぇし


「それに、因果応報って……」


一体、何があったんだよ、俺とこいつらに





「っ……!!」


次、目を開けた時は、いつもの箱庭での俺の自室の天井が目に付いた
つまり、今のは夢だった、ってうわけか。それにしては後味も悪くてリアルすぎた


「そうだ、尊達……!」


飛び起きてドアを開けようとすればガチャガチャとドアノブが鳴るだけでびくともしない
なんでだ、ここに鍵なんかついてなかった、はずだ
俺、閉じ込められたフラグか?
自分でもどうしてこうなっているのか状況把握に困っているときだった


「満田冷慈貴様を謹慎処分とする」


ドアの向こうからトトの声がした
そのことにも驚いたが、今一番驚くことはそこじゃない


「はぁ!?謹慎処分!?」

「……覚えていないのか」

「は?」

「貴様は先日、他クラスの生徒に暴行をしている。よって、謹慎処分がゼウスから下された」

「……あ」


微かに思い出したのは、俺のことを恐怖の眼差しで見る生徒ども
そうだ、俺……2人くらい泥に戻したんだ
あのときは完全に頭に血が上っていて何が何だかわかっていなかったけども


「大人しく、己の酷さと向き合うことだな」

「……己の酷?」


それだけ言うとトトが出て行ったのが足音でわかる
己の酷、そう言われて、さっき見た夢がまた脳内で流れ出した
(やっぱり、あれは俺ってことなのか……?)
確かに、残酷という言葉しかなかったかもしれない。
それを受け止める。と言われてもどうしろっていうんだ

さっぱりわからない。とりあえず、当分は部屋から出してもらえそうもないことだけはわかった


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