契約のようにも聞える口約束

「じゃあ……」


草薙が期待に満ちたような表情で見上げる
でも、そのあとすぐに考え込むようにうつむきばっと顔をあげた


「教えてください。尊さんに剣を教えてほしいです」

「なに?」

「尊さんの剣の強さに感動しました。だから純粋に教えてほしいんです」

「お、教えるって……おれがか?」

「はい。お願いします!」


草薙のリアクションはまるで、初めて空手を目にした時の俺のようなリアクションだった
俺の場合は、2歳上の姉ちゃんが師匠だったわけだが
ちなみに、俺のちゃんとした家族は、両親と20歳の姉ちゃん、それに18の俺、その下に16歳の妹だ

姉ちゃんも妹もうるさいけども



「っち……顔上げろ!ったく、わかったよ。明日6時に校庭だ。しょうがねぇから相手してやる」

「え!いいんですか?」

「どうせ、断わってもしつけーんだろ。それについでだ。おまえのためにするんじゃねぇ」

「ついでって……いつもやってるんですか?」

「ああ、体がなまっちまうからな。それに、1人よりも相手がいたほうがやりやすいしな」


ああたしかに剣術となると、いや、武道になれば相手がいるほうがやりやすいだろう
人間も神様も見かけによらないと言うけども、俺はそうは思わない
結構見た目のままの性格だと思う
いや、尊は見た目どおりだけどまさかここまで芯のあるというか、優しいやつだとは思わなかったけども


「じやぁな。遅刻すんじゃねぇぞ。ああ、それと……気をつけろよ。それ以上下がるとぶつかるぞ」


そんな気遣いも出来る、それが尊なんだとしたら心さえ開いてしまえばきっと大丈夫なんだろう
時間はかかるかもしれないけど

草薙がお礼を言おうとした頃には、もう尊はその場から離れていた

なんというか、なんとも無意識イケメンなやつである
そんな奴に懐かれてしまった俺って一体なんなんだろう

ただのドライな下衆野郎だと思うんだけども


「凄かったな。草薙、お前めっちゃ頑張ってたなー。見てて楽しかった」




そう言いながら草薙の腕をつかんで立たせる
いつまでも座り込んでいるわけにいかないだろう


「さ、帰るぞー。俺も今日は集中力切れたしな。どうせなら一緒帰るぞ」

「あ、ありがとうございます」


草薙と後片付けをして寮へと戻る
自分の部屋に戻ったとき、俺のダイニングテーブルの上に何か小さな影が動いているのがわかった


「……またか。ずたぶくろ」

「おう!おかえり!ってだぁから!ずたぶくろじゃねぇ!」



ワーワーと喚くずたぶくろをスルーして、晩飯の準備をする
こいつは食べるんだろうか


「お前、飯……」

「おれは大丈夫だ!それよりお前さん!くたなぎとはどうなんだ?」

「……?草薙と?」

「しらばっくれても無駄だぜ?今どのくらい進展したんだよ」


どうやらこのずたぶくろは俺が草薙に恋をしていると思い込んでいるようだ
ぶっちゃけよう。別に好きじゃねぇし
確かに女子としてはいい方だけどそういう風に見たことは無い


「そういうずた……メリッサは好きな女、いねぇのか」

「お、おれかぁ?いるわけねぇだろ!」

「じゃあ、好きなタイプは」


それくらいいるだろう、自分を人間だと言い張っているなら
そう思って台所から声をかけてみる
メリッサは、泥人形のくせに考え込むような動作をしながら口を開く


「そうだなぁ……。黒髪で、美人でヤンチャな女の子が好きだぜ」

「黒髪……美人……ヤンチャ……」


俺の中に一人だけ、ハッキリと人物像が映し出される
紛れも無く、そいつは、俺のくそ生意気なうざったい愚妹である


「……まじでか」

「なんだなんだぁ?もしかしてピンと来る奴でもいるのか!」

「いや……いない……と、思う」

「いるんなら教えてくれよな!」

「……いたら、な」


とは言っても、あいつは人間だし、この箱庭にいるはずもないので、もう俺の脳内からはあいつのことは削除しておこう。
そしてその日は、メリッサと男同士の会話をして、一日を終えた


[ 31/82 ]

[*prev] [next#]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -