放課後、体育館修羅場

それから、基本俺は寝ていたが気付いたら放課後だった
もう尊も草薙の姿もない
また懲りずに尊のところに行ったんだろう、草薙も
でも、多分もう大丈夫なんじゃないか、と過信のようなものをして、俺はジャージを持って講堂へと足を進める


「わぁー!冷慈ちーん!助けてー!」

「なんだ、よ……どわぁ!?」


ロキに名前を呼ばれて振り返るとそこには目の前まで全力で走ってきていたであろうロキがいて、迷うことなく俺へとタックルをかましてきた、ので避けた


「ちょ、ひどーい!オレが逃げてるっていうのに!」

「……まーた哀詞か」

「そっ!だって面白いジャーン!あ、きたきた!じゃーねェん」


向こうから走ってくる哀詞を見つけて、ロキはまた逃げ出す
哀詞はというと、頭から白い粉を被っていた。
これは……あれだな、チョークの粉だ。なんともありがちな悪戯である


「おい!冷慈!あいつは!」

「あっち」

「まじ一回捕まえて泥水に突っ込んでやる……あのボケめ」

「……頑張れー」


ズカズカという効果音のつきそうな歩きで進んでいく哀詞を見送って、止めていた足を動かす
さて、俺の部活の時間だ
1人で気ままに好きなだけ、空手の移動稽古、型稽古をするストレス発散の時間


「さーて今日はどっからすっかなー」


講堂についてそそくさとジャージに着替え柔軟をしだしたときだった



「あ!冷慈さん!」

「草薙?尊まで……んだ2人して怖い顔しやがって」

「あ、いえ、実は……その、尊さんと勝負することになりまして。剣道部の入部をかけて」

「剣道部、か……。なるほどな。俺はこっちの隅つかってるから、勝負したらいいんじゃね。頑張れな」

「はい!」


どうやら上手くいっているようだ
俺がその勝負ってのを代わってやってもいいんだけど、これは草薙が頑張るべきことだろう、それに俺が代わってしまえばそれこそ尊の気をダメにしてしまう可能性もある、そう思って隅のほうに移動し黙々と稽古に専念することにした


「えぇと、3本勝負で、竹刀で打ち合い、先に2本を取った方が勝ちです」

「3本?ぬるいこと言ってんじゃねぇよ。1本だ。それで決める」


専念していたはずが、殺気だった気配とその言葉につい、集中力を削がれてしまい、2人の方を見る
明らかに勝負前、というあの雰囲気だ


「1本……ですか?」

「戦いなんて斬るか斬られるかだろ。3本もいらねぇよ」


まぁ、それはそうかもしれないが、俺達からしてみればその戦いというのが実感が沸いてこないところだったりもする


「望むところです!私も全力で行きます」

「ふん、上等だ。勝つのはおれだ。言ったことを後悔すんなよ」


尊と草薙では勝負の結果は目に見えている気もするが、ここは草薙に賭けよう。
って、思わず俺まで真剣に見てしまっている

こういう、個人でやる特に武道に関して、俺は弱いからだろう
武道のあの魅力は一度ハマると病みつきだ


「雑草と普通に勝負するのは公平じゃねぇ。おまえは女だしな。ルール関係なく、おれの体に剣が少しでも触れたらおまえの勝ちだ」

「いいんですか?では、ありがたく受け取っておきます」


そして、草薙が大きく息を吸う
来るぞ。俺の大好きなあの空間が
相手の心をも折るようなあの武道ならではの迫力が


「始め!」


その声を聞いてすかさずといったように尊から重い一発が振り下ろされる
なんとか受け止めた草薙は苦痛の表情だった
あれは俺でも多分、若干腕にきそうだ


「一撃で終わるかと思ったのにな。雑草のくせにおれの攻撃受け止めるなんて、やるじゃねぇか」


尊は余裕の表情で次々に攻撃を仕掛けている
あいつ、手馴れてるな。まぁ、剣道の動きではないにしろ、剣術は相当なんだろう


「……くっ……う……」

「逃げ腰だな。そんなんじゃ、おれには絶対勝てねぇぞ」


鈍い竹刀のぶつかり合う音を聞きながら、こんなに危なくて(俺にとって)楽しいものだったか、と思う


「はぁっ!!!!!」


次の瞬間もの凄い勢いで振り下ろされた竹刀を草薙が寸でのところで交すも、床は竹刀を振り下ろすときの空気圧と衝撃からかへこんでしまった
破壊力抜群だ。流石にあれは当たると俺達人間は死にそうだ


「どうした……よけるなよ?もう少しで仕留められそうだったのに。潔く逝っちまえよ」

(これは……流石にまずいか)


尊の発言にハっとする。何をあいつは言ってんだ、神様ってもんが人間を、女を殺そうってか
なんにせよ、これ以上危険だと判断したら俺も割り込んででもして止めないと危ない
そう思い出して、真剣にその勝負、尊の竹刀の動きを見つめる


「私は……負けません!絶対勝ちます!私は尊さんと一緒に学びたいんです!」

「……!」

「だから……だから……諦めたくありません!」


草薙の必死な思いはこっちにまで声で伝わってくる
それでも尊の威圧というか覇気というか、殺気というか、そういったものは未だに消えない
でも、さっきよりも、竹刀からは殺気が消えたような気がした


「じゃあ、これならどうだ?たあぁ!」

「くう……っ」


重い一撃を真っ向から受け止めた草薙はしっかりと、足に力をいれその衝撃に耐えているようだったけど、今までの防戦一方で体力を使っていたのかフラついた


「あっ……!」

「…………」


これは草薙に隙が出来てしまったわけだが、きっと尊は何もしないだろう
草薙の背後には草薙は気付いてないがやたらと道具が散乱していて今打てば草薙の大怪我は確実だ


やはり気付いてないのか、草薙は尊が油断したのかと思ったように竹刀を振り上げる


「あっ!」

「……甘い!」


草薙がやっと放った攻撃すら尊はひらりと交わし、その竹刀の先端をビッと草薙の鼻先に突きつけている

(やっぱり……あ?)


「隙を狙わないのも技の1つだ。余裕のない攻撃は逆に大きな隙を生む」

「私の……負けです……」


草薙が敗北を感じ取り、落胆しているのを見てから、俺は尊を見る
すると向こうも俺を見ていたようで、視線がぶつかった

そして、尊が口を開く


「諦めるのははえぇぜ……」

「え……?」

「女のくせにやるな、おまえ。おれに傷つけるなんて」

「傷?」


草薙は自分がそんなことを出来たとは思わないんだろう。
まぁ確かに分かりづらいし、俺でも、微かに気付いた、その程度だった

尊は耳の下辺りの頬を見せながら溜息をつく


「お前なんかの攻撃を避けきれねぇなんて、おれもまだまだ修行が足りねぇな」


そういう尊は諦めたような態度を見せる
人の事言えないけど素直じゃねぇよなアイツ


「もしかして私の攻撃、尊さんに当たってたんですか?」

「当たってねぇよ。調子にのんな。ほんのちょこっと掠めただけだ」


バツが悪そうにちょこっとの部分を強調して言っている
なんだあれ可愛いじゃねーかよ


「掠めた……。本当ですか!?」

「何度も言わせるな。そうだって言ってんだろ」



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