騒がしい教室

あれから何日かたったころだった。

彩詞は何故かアポロンに懐かれ毎度毎度嫌悪なのか呆れなのか、冷たい対応で切り替えしているし
ロキに悪戯の対象にされたらしい哀詞はいつもギャーギャーと文句を言っている
宋壬に関してはたまに月人と会話をしているところを見かけるが基本は寝ている

つまり、教室に生徒が増えようとも俺としてはやっぱり今までとそこまで変わらない状態だった

(…なんか、でも、騒がしくはなったか。特に哀詞とかいるし)

そんなことを考えつつもふと視線をずらすと今、登校して来たであろう尊と草薙がいた
まぁ、草薙の挨拶を無視している時点で尊には草薙を相手にするというつもりはないようだ



授業も終わり昼休みになる、俺は席に座ったまま尊を観察する
すると席を立って、どこかへと足を進めていた
その後を追うように草薙がついて行っているようにも見える


「……チッ、しゃーねぇな……」


また、雷でも落ちたら面倒だ。草薙は女なわけだし一応は心配なわけで
俺も後をついていくことにした


「草薙、待て。俺も行く」

「あ、冷慈さん……」

「一人より2人の方がいいだろ」

「はい」


尊の後をついていくと、また屋上へとたどり着いた
こいつは、本当に屋上が好きなのか、それとも馬鹿なのか

馬鹿は高いところが好きだって言うしな

屋上のドアを開けると、また筋トレに励む尊の姿が視界に映る


「……はっ……はっ……」


どうも昼飯は食わないつもりらしい
それでいいのか、思春期学生よ。とは思ったものの、本来学生ですらない神様のコイツにそんなことを思った時点で俺もどうなんだ


「あの……尊さん、お昼ご飯食べないんですか?」

「……はぁ……はぁ……はっ……ふっ……」

「尊さん、良かったらお弁当を一緒に食べませんか?購買でも人気の稲荷弁当です。和食で統一されているので、きっと尊さんも気に入るはずです」


草薙が尊に話しかけているのを横目に俺は日陰になっている、ドアの真横に座り込む
今、俺が助け舟を出すところではない、だろう
草薙が頑張っているならひとまずは見守っておいて悪化しそうなときに仲裁に入ればいいだろうと思う


「これ、どうぞ。食べてみてください」

「…………」


蓋に取り分けた稲荷弁当を草薙が差し出すとじっと見つめてはいるようだ


「…………いらねぇ」

「でも、身体を鍛えるなら食事も大事です」

「余計なお世話だ。おれにかまうな」

「でも尊さん1人だと召し上がらないような気がして」

「…………」

「一口だけでもどうですか?きちんと食べないと力が……」


あ、これはちょっとダメかもしんねぇ、と起き上がって仲裁に入ろうとしたときだった


「いらねぇって言ってんだろ!」

「あっ、お弁当が……」


思わずなのか尊が草薙の手を叩き、弁当は見るも無残に下に真っ逆さまだ
これじゃ、食えるもんも食えないだろう
もう少し、早く仲裁に入っておくべきだったか、と草薙の表情を見て、思うが時既に遅し、とやらだ


「……っ」


一瞬だけ、尊に狼狽の表情が浮かんだことからわざとではないことがわかった
俺は地味に歩みを進めて、下に散らばった稲荷弁当を拾いあげる


「おれに構うな。……あっち行け」

「尊さんに分かってもらえるまで、私はここを動きません」

「……雑草なだけあってしぶといな」

「尊さんに認めてもらえるような雑草になってみせます、私」


それはどうかと思うぜ草薙。そう思いつつ、拾った稲荷弁当を何気なしに口に運ぶ
落ちたとはいえ綺麗だったし、まぁ、俺胃袋は強いしいいだろう、腹減ったし

そんな俺の行動には気付かないくらいに逃げている尊と追いかける草薙
これは拉致の開かない鬼ごっこみたいにも見えてくる


「……いいからもう行けよ。1人にしてくれ」

「あの……お弁当、無理やり押し付けたりしてすみませんでした」


尊にわざわざ頭まで下げて、下を見る草薙
多分弁当を回収しようとしたんだろう


「あ!お弁当!」

「悪い、食ってる」

「お、落ちたのをですか!?」

「おう。んじゃ、俺も外の空気吸ってたいし、残るわ。またな、草薙」


俺がそう無理やりに会話を終わらせれば、俺の意図を汲んでか汲まずか草薙は失礼しますと言いながら帰って行った



「…………冷慈さん、よく落ちたの食えるな」

「食べ物は粗末にすんなってこったな。……まぁ、俺もわかるよ。同じ境遇じゃないにしろ、多分理解はしてやれるからさ。こう見えて、人間の癖に色々あったんでな俺も」

「……おう」

「……まぁ、俺は他人なんか信用しちゃいねぇけど、ちょっとでも信用してみようと思うなら、いいんじゃね?」


落ちた稲荷を食いながら、"いい人間"の台詞を吐いた
草薙の頑張りには多少なりと感心もしているので、ちょっとくらい手を貸してもいいだろう、そう思っただけだ


「じゃ、ちゃんと話せるようになるといいな。草薙とも。俺と話せるぐらいなら大丈夫だろうけどな」


それだけ言って俺も稲荷を腹に納めてから教室へと戻ることにした

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