やる気は皆無。だったはず
そしていよいよ、来る日体育祭
いや、俺は別に待ち望んではいなかったけども。
結局、俺とディオニュソス、トールは応援サイドではなく、強制的に競技に参加させられるわけだが。ただ、俺達3人での個人戦なだけだが。
いやはや何がどうしたらこうなるんだろう
「くっそ…何が楽しくて体育祭なんか…」
「そう言いつつ、しっかり襟足結んでるよね〜」
「……そうだな」
「いや、邪魔だし。暑ぃんだよ」
ディオニュソスとトールに何故か地味にからかわれながらも今のとこは観戦席にいる。
つうか、不良トリオと優等生トリオで赤白でやってんなら、それでいいんじゃねぇのか
何故ゆえに俺たちまで…ゼウスのおっさんまじうざいレヴェルだ
レベルではない、もはやレヴェルだ
「さぁ、貴様ら。存分に盛り上がれよ」
やる気のかけらもない司会の声をBGMに俺はディオニュソスとトールから少し離れた位置から、芝のグラウンドを見つめる
(だいたい、なんでグラウンドに芝が生えてるんだよ。俺の高校とか砂だったっつうの)
くだらないことを脳裏で考えながらボケッと見ていると尊と目が合った
やたらと元気そうに手を振ってきているので、適当に振り返しておく
「冷慈もこっち来なよー。出番まで時間あるんだし、一緒に観戦とかさ」
「……せっかくだしな」
「…………パス。めんどくせぇ」
おそらく顔が凄い事になっていたであろう。自分でも分かるくらいには嫌悪にまみれた表情だったはずだ
「競技は3つと個人戦の1つの計4つ。種目は毎回くじを引いて決定する。先に2勝したチームが優勝となる。個人戦の説明は省く。……説明は以上だ。用意完了次第、競技を開始しろ。後は任せた、私は図書室へ戻る」
なんて適当な司会だ、現実であんなんじゃPTAから非難の嵐だ
まぁ、あの人ならPTAすら見下しそうだが
一人ただグラウンドを見ていれば最初の競技はアポロンとハデスのギリシャ組が対決をするらしい
くじの内容は障害物競走だ
(そういえば…俺もしたな。障害物競走。うわー思い出したくねぇな)
また最悪なことを思い出し、無意識に嫌悪にまみれた顔でその競技を見つめる
「いちについてぇ……よ〜い!」
バタバタと走り出して白熱している戦いは、白組のハデスの勝ちに終わった
アポロン、どんまいだな。
(…さて、仲間割れはいつかね)
頭の中でそんな外道なことを考えながらアポロン達赤組を見つめていれば、俺が創造していたような、現実でよくある、"負けた奴に対する冷酷な態度"は見られなかった
(……まぁ、優等生、だしな)
次は北欧組の2人の対決。今度はくじが選んだのは借り物競走。
結局は、ロキの反則負け、といったところだが、俺からしてみればバルドルのもどうかとは思う……
動物が持ってくるっていいのか……。一応、借り物には変わらないのか……
基準がさっぱりだ
そして、日本のあの兄弟対決
実は地味に楽しみにしていた。
兄弟対決とか面白そうじゃんっていう理由だけど
「面白い展開になってきたぜ。これは責任重大だな」
紅白対決の最終戦を前に尊が意気込んでいるのがよくわかる
すげぇな、俺なら絶対文句しか言わねぇぞ
「あにぃ!おれ、頑張るからな!冷慈さんもー!見ててくれよな!」
「へいへい」
わかったわかった、と片手をあげて返事だけをしておく
一体全体何が楽しくてあんなに輝けるんだか
汚れを知らないって素晴らしいことだとおじさんは思うのよ
まだ18だけども
「では!くじを引かせていただく!パン食い競走であります!準備はいいでありますか!……いざ!位置につきまして!用意!」
ピストルの音で勝負が始まったわけだが、現状が1対1で、これで勝負が決まるからか声援がとんでもないものだった
やばい、俺、ここにいたくない
そんな中聞えたのは草薙が叫んでいる声だった
「頑張ってください!負けないで!勝って!!」
目線的にその応援は尊のほうに向いている様だった
よくもまぁ、他人のためにそこまで声を出そうと思うもんだ、と呆れながら見ていると尊が加速した
「……おぉ」
思わず声を上げてしまったが、まぁそこまで応援しようとは思わない
そこまでは、よかったけども、事件は起きた
それは尊が吊るされたパンを取ろうと飛び上がったときだった
「ぬあっ!!」
「あ」
身長のせいか、パンをくわえ損ねた
「くそったれぇ!」
勢いがあったせいで、あんぱんから離れた場所に着地した尊が慌てて引き返してまた挑戦する
その隙に月人が追いついて、あっさりとパンをくわえていた
「っ、ふ、あ、あーっはっはっは!も、もう、無理ぃ…っうわっはっはは!!だーいじょうぶかー!尊ー!あっはっはは!!」
恐らく箱庭にきて、一番の大笑いをしたような気がする
これはだめだ、俺のツボだった。
なんというか、こういう、な?
決して人の不幸を笑う趣味はないが、あまりに尊の必死さが伝わって、あんぱんひとつにめがけて飛びまくるその姿は俺からしてみれば腹のそこから笑えるものだった
「ちくしょー!次は仕留める!っは!!!」
なんとか凄いジャンプ力を見せ飛び上がりあんぱんを口にする
「おぉ!」
「……うっし!」
今度こそ走り出したものの月人はゴール目前、ただスピードは遅い方だと思う
俺もそこまで速くないので人のことは言えないが
それに尊のあの速さならギリッギリで追いつくんじゃないだろうかと、思っていた
「がんばれ、がんばれ、ツーキツキ!ファイトだ、ファイトだツーキツーキ!」
「転ばないように注意してください!後ろから追ってきますよ」
アポロンとバルドルの声援も耳に入ってくる
なんだ、本当に変な奴等だな。と思いつつ俺は未だにあの、尊の跳ねる姿を思い出し腹を抱えていた
「…………」
「ワオ」
「あ?なんだよ、もうっ…くくくっ」
横から、驚きに満ちたような表情でこっちを見てくるディオニュソスとトールに問いかけながら、笑いすぎて涙すらうっすら出てきた状態でグラウンドを見直す
スパァンっとゴールの合図も同時になった
「勝者……!白組、戸塚尊!そして赤組、戸塚月人であります!」
「おっ」
「えっ……!引き分け?」
引き分けか。一番平和なことである。勝負ーなし!バンザーイ!バンザーイ!ってな
「勝てると思ったんだけどな……さすがはあにぃだぜ。おれはまだまだだな」
悔しそうに、尊が何かを呟いているが俺のところまでは聞えない。まぁ、それもこれは結果オーライだろ。
こうしている間に、俺は自分でも知らない間に体育祭を楽しんでいた
それから尊と草薙は何かを話していた
あ、なんだろう、俺なんか今学校の先生の気分だわ
(楽しそうにしやがって、これだからリア充どもは)
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