現れたな神様

あれからどれぐらい時間がたっただろう。特に誰が来るわけでもなく、空もぼちぼちいい色になっていた


「……久しぶりにするとやっぱ時間も忘れるな」


そう呟いて、少し休憩をすることにした
走ったり、暴れたりとは違って集中力と忍耐さが割と重要になってくる空手は一回気を逸らしたら、休憩を挟まないと、やり続けるのは難しい


「はー……疲れた」


なんだかグラウンドの方が騒がしい気もするがどうせあの神様連中のせいだろう
そんな風に思いながらも、いい意味での疲労感を味わっていると、ここが箱庭だということもこの瞬間だけ忘れれそうだ

少し休憩して、また、型を1から通していく
やっぱり集中して出来るっていうのは好きだ
今日は気が済むまでやろう


「………」


聞こえるのは、突きや蹴りをしたときの風を切る音だけ
この空間はとても俺にとって心地いいものだった


「……っ!」


途中、カタンっという物音がして振り向けば、そこには、尊が焦ったような表情でつっ立っていた

(体験、入部だとか草薙が言ってたな)


「お、やっぱ来たか」

「…………」

「…どうかしたか?」

「別に。なんでもねぇよ」


そう言ったそいつの表情は明らかに暗いものだった


「話せば楽になることだってある。…まぁ、話したくねぇなら一緒に空手してみねぇ?スッキリするぜ?」


そう言って手を差し伸べれば、躊躇しながらも俺の手を握り返してきた




「んで、どうしたわけ」

「…おれは…」

「…ま、話したくなかったらいいけど。ほら、走るぞー」


体育館内を縦に走り込む
いわゆるシャトルランだ
これがキツくて俺はそこまで好きじゃないが、まぁ、意外といい準備体操代わりにはなる


「っ、はぁっ…ひぃっ…」

「…はっ…」


こいつとやっていると俺の持久力のなさが身に染みてわかる


「すっげ…お前、体力、すげぇのな…っ、はぁ…」

「!!あ、アンタがなさすぎんだよ…!!」

「はは、そりゃ、間違いないけどな…っきっちー…」


変に気があうなと、直感で思った
多分、だけど。俺だけが思っているならこれは赤っ恥である

しかし、こういうときの人間の勘というのを舐めないでいただきたいところだ。


「はー…やっべ、楽しい。お前、いい奴なんだな!」


床へ寝転がってケラケラと笑いながら、そう言えば尊は驚いたような顔をしたまま俺を見ていた
なんだ、なんだその驚き方は。まぁ、流石にいきなり俺がここまでキャラというか、あの(客観視したら)冷酷だった対応がこうなったんだから当たり前なんだろうか


「…あ、あぁ、おかげで俺もスッキリした…冷慈さんってすげーな」

「…?は?」

「なんか、ぜんっぜん違うけどあにぃみてーだ!」

「いやいや、説明プリーズミー」


結局、よくわからないが、俺はどうやら尊に非常に懐かれてしまったようだ
途端に俺を見る目がなんでか輝いてる。なんだなんだ、誰か俺に説明をしてくれ、切実に頼むわ



「そんなことが…」

「事故とはいえ……俺が殺したことに変わりはなくて」

「大丈夫。 お前が罪悪感を抱いてる限り、腐ってはないってことだからな」


(聞いたトラウマは俺のそれよりも深い闇)

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