素通りする人間の闇

「あの、冷慈さん、運んでくれたの、冷慈さん、ですよね…?ありがとうございました!」

「もう、大丈夫なのか、草薙」

「はい。大丈夫です。ありがとうございました!」

「…別に。たいしたことじゃない。じゃあな」


スルっと、そいつらの横を通り過ぎれば、草薙が俺を逃がさないようにか、咄嗟に俺の腕をつかんでいた

さっきまで、3人と話して、落ちついたはずの苛立ちがまた、どうしてか煮えたぎりだす
どんんだけ俺はこいつらが苦手なんだ、と思いつつも草薙だけに話しかける


「何だ」

「あの、冷慈さんも、教室に…!」

「…」


苛立ちは確かに顔を見ることによって再発してしまったが、さっきの草薙への罪悪感はどう頑張っても消えず、一回舌打ちをして俺も結局自分の席へと戻る
俺がちゃんと座ったことを見計って草薙は元々いた3人へ質問をする


「部活動のことわかりました?」

「……部活動?」


そういえば、こうなる前にそんな話もしていたな、と思い出す
俺は、やっぱり、どれにも入る気はないけど


「あ、皆さんにも説明しますね」


それから草薙が、また朝と同じ話をしている間、俺はただ草薙をじっと見ていた
同じ人間としてこうも差が出るか


「……えっと、冷慈さん……?」

「あ?」

「あの……あまり見られると恥ずかしい、です」

「……あぁ、そうか。悪い」


草薙にそう言われて、ロキあたりが騒いでるのを無視して、俺は机に突っ伏した







「……という感じです」

「……なるほどな。……バルドルはどうするつもりだ?」

「わたしはテニス部に興味があるんだ。その中の軟式というものにね」

「僕もテニス部希望だよ、硬式テニス部」

「そこ、こだわるんですか」


なにやらガヤガヤとした雑音が聞えて目をあければ、響きが素敵だとか、青春だとか、切磋琢磨だとか聞えるが今の俺の思考回路は停止状態に限りなく近いので、よく聞き取れない


「月人さんはどうするんですか?」

「不明です。どれも興味を持てませんので」

「それは困りましたね……」


また、俺には関係ないかと眠りにつこうとしたときだった


「おい、雑草野郎!兄貴の名前が違うぞ。ふざけてんのか?」


急に、うるさい声が響いて俺の眠気が一瞬にしてふきとんだ
このくそ野郎、お前がふざけてんのか
俺が横から黙らせようかと思った時だった


「ま、まさか。利便性の問題で、改めて考えただけでして」


草薙が名前がそうなったことについて話し始める


「スサノオさんには、戸塚尊という……」


これで少しはマシになるかと本気で思った俺がバカだった


「撤回しろ!」


さっきよりもうるささの増した声での全否定と迫力
恐くはないが、素直に迷惑だ


「おい、うっせぇんだよ」

「あ!?お前にゃ関係ねぇだろ!」


俺が割って入って、奴を黙らせるつもりが、向こうも負けじと俺を睨みつけてきて、屋上の再来のようになってしまっていた
慌てる草薙を視界の隅に、俺はただジッと奴を睨みつける


(…あ、綺麗な髪してんなこいつ)


「戸塚尊。規則には従ってください」

「だけど、あにぃ……」

「卒業という目標を達成する上で、名字と名前は必要なものなのです」

「そ、そうなのか……あにぃが言うんだから、そうなんだろうな」


月人の言葉を聞いても、納得が出来てない、といったように食い下がる尊
それよりも、俺の中で衝撃がはしってしまった


「あにぃ…?」

「あ?なんだよ!」

「…お前、弟キャラなのか」

「はぁ?」

「そうか…。お兄さん、知らなかったぜ」

「何言ってんだお前」



(このなりにこの口調で、あにぃ、だってよ)


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