落ちた雷
突如として、雷鳴が響き渡ってきた
でも、空はきれいな青のまま。しかし、雷鳴は着実に近づいてきているようだった
『学園を拒否する神よ』
「この声はゼウスさんの……?」
「っち……めんどくせぇ」
「……俺は神様じゃねぇっての」
途端に頭上から響いたおっさんの声に、俺も手を離し悪態をつく
出来るなら、俺もこんな学園生活、サボってたいんだよ結構本気で
『お前たちに警告を与える。計画に参加しろ。さもなくば罰を受けることになる』
きっと、このお前たちっていうのには俺も含まれているんだろう
面倒だ、そう思っていれば、さっきよりも近くで雷鳴が響き渡っていた
「罰ってまさか……雷を落とすつもりですか!?」
草薙がこの場にいないゼウスに向かって空へ問えば、肯定するかのように雷鳴の音が拡大した
あーあ、と内心思いながら俺は軽いため息をついた
「お願いします。計画に参加すると言ってください!このままじゃ……」
「断る」
俺もそいつも、空を睨み付けていた
(だから、俺は神様なんか理解してやろうとも思ってねぇよ。向こうが理解するまでは)
俺が内心で思っていることはどうやらゼウスにはばれているらしいが、もうこれは仕方ない
雷が自分にも落ちるんだろうと、死ぬつもりでいたときだった
「危ない!」
雷は俺ではなく、俺に似たそいつにだけ落ち、それを庇うように草薙が飛び出していた
「ちょ…おい!!」
「ばか!おまえ……」
俺とそいつの声が重なる
結局は、そいつも一緒に雷に打たれて、二人とも俺の目の前で意識を飛ばしたが
「嘘だろ…おいおい。運んでいけってか?」
俺に対しての罰ってのをおっさんはしっかり把握しているようだった
俺がこんな神様と女子のためになんでこんなことをしなきゃならんのだよ。と思いつつも、放っておくわけにもいかずに二人を担ぐ
「草薙軽っ……こいつも筋肉質の割りに軽いな……まぁ、チビだからか。って5cmしかかわんねぇな」
ブツブツ言いながらも、結局右に男、左に女を担いで保健室まで連れて行く俺も俺なんだろう
「失礼しゃーす」
ガラッと保健室のドアを開ければベッドには既に何人か寝ているようだった
多分、唸ってるしこいつらもさっきの雷に当てられたんだろう
「よっと……。あーきちぃ…………よし、今ならいいよな?」
二人をベッドに下ろして、俺はひっそりと保健室の窓を開けて足をかける
まぁ、一階だし、草薙も寝てるし誰も見てないし、この間に校舎から逃げ出せば、なんとかなるんじゃないか
そう思った俺は遠慮なく、その作戦を実行することにしたのだった
「あれあれェ?アンタってば見かけない顔しちゃってるねェ?どこの神様〜?」
「っ!?っ、ああ!?」
窓から降りようとした瞬間に背後から声が聞こえて思わず、驚いて外へと落ちてしまった
「ってぇ……このくそ野郎……」
モロに顔面から落ちてしまい、不可抗力だが、地面とキスをしてしまった
いや、そんなことはどうでもいいけど、コイツだ。コイツ
まじふざけてんのか
「やぁだー怖いんだからートール、ね?」
「……今のはロキが悪い」
「えー、そんなことないってばぁ。せっかく、逃げ出そうとしてたの捕まえたんだからぁ、もっと褒めて欲しいんだけどなァ」
誰がお前みたいな奴に捕まるかと思いながら、目の前にいる二人を睨む
今、確かにトールとロキって名前を呼び合った
つまり、こいつらは北欧神話か
「ちっ、トリックスターに北欧の雷神かよ。めんどくせ」
「おー!おれのこと知ってるんだねェ!……んでんでェそーいうアンタはァ?」
「イチイチムカつくなお前!人間だ!間違えるなよ!人間だ!」
もう、日本神話の風神候補というのは言わないことにした
言うだけ俺が疲れるし、実際問題、俺は神様の道は選ばないだろうし
一年後には俺も草薙と一緒にこの学園から、つうか神様からさよならだ
「ふーん……ねぇねぇ、名前は?」
「うっるせぇな!満田!満田冷慈だ!これでいいか!」
「ちょっとぉ〜冷慈くん怖いんだけどぉ」
「ほっとけ!」
そう騒いでいるうちに、ほかの連中も目が覚めてしまったようで、俺はため息をつきながら、痛む顔面を気にしつつまた窓から保健室へと戻った
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