さて、椅子並べが待ってる
「……それではアポロンさん。よろしくお願いします。では、私は原稿の準備などしてきます。時々様子を見に来るので不明な点があれば何でも聞いてください。もちろん、冷慈さんにも」
「…分かる範囲でしか答えねぇけどな」
「ありがとう……くさなぎ、さん、満田、くん。ねぇ、あなたたちを名前で呼んでもいかな?草薙、満田という名字はわたしにとって、少し発音が難しくてね」
「もちろんです。呼びやすい言い方で呼んでください」
「好きにしてくれ」
俺と草薙の返事を聞いて、アポロンは少し考えてから口を開いた
「呼びやすい言い方かぁ……それなら僕は妖精さんと、カゼカゼって呼ぶよ!ねっ、妖精さん、カゼカゼ!」
「よ、妖精さん……!?どうしてそうなるんですか!やめてください!」
「カゼカゼってどっか来たお前」
妖精さんは、まぁ、どうせ可愛いとかそんなところなんだろうけど、カゼカゼってなんだ、カゼカゼって
俺が風邪っぴきみたいに言うんじゃねーよ禿げろ
「どうしてって……妖精のごとく神秘的な存在に見えるからだよ。そしてかわいい、とてもかわい」
「なっ……!」
「カゼカゼは、さっきツキツキに聞いたんだ!風神の風はカゼとも読むって!だからカゼカゼ!カゼカゼなんだよ!」
「……好きにしてくれ」
俺の半ばあきれた肯定を聞いて、アポロンは満足そうな表情のまま、今度は草薙のほうを、ジッと見つめている
「あの、その……、……ありがとうございます」
なんでか、感謝を言った草薙に俺は少しだけおかしくなって鼻で笑う
だが、アポロンはその感謝の言葉を了解だと思ったようで更に満足げに頷いていた
「ツキツキはどうするんだい?」
「草薙結衣、満田冷慈」
「妖精さんでもいいんだよ?」
「彼女は妖精ではなく人間。誤った名称で呼びたくはありません」
「真面目だなぁ。そんなところがツキツキの美点だけどね!じゃあじゃあ、妖精さん。妖精さんの原稿楽しみに待ってるよ。それから僕らの名字もね!」
「期待に添えるよう、頑張ります。では、また後ほど」
そう言って、草薙は出て行った。どうせ名字をつけるために資料でも探しに行くんだろ
俺はといえば、この場で少し考えていた
さて、この状況を吉ととって、また裏にサボリに行くべきか否か
「カゼカゼはどうするんだい?」
俺が、適当にそれっぽい理由をつけて、サボろうとしたとき、アポロンに声をかけられる
「…とりあえず、椅子、並べるか…11脚だったよな。…お前ら、一人2脚ずつ運んできて、ここに一列、6脚並べろ。そうしたら2列で済むしな。…んで、俺が5脚か」
結局、俺が一人で仕切ってしまった。
なんで微妙に打解けてんだよ俺!
そう思っても、一度こうしてしまったのを、今更悪態だらけに戻すわけにもいかず、そのまま、椅子を4人で取りにいく
(どうせ、こんなの、すぐに壊れるんだろ)
少し、楽しんでいる俺とは裏腹に、心の中が黒くなっていくのがわかる
「わぁ!カゼカゼってばすごいね!椅子を一気に5つも持てるなんて!」
「いや、普通だから」
「それはわたしもすごいと思うな」
「…凄いことです」
「…お前ら無駄に俺を持ち上げるな」
(早く、この場から離れたい)
そう、心の中の俺が叫んだ気がした
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