50000 | ナノ

「だからいっつも言ってんじゃん、消極的すぎって」
「お前のは守りが薄すぎるじゃないか!得点を入れるだけがサッカーじゃないんだぞ!!」
「得点しなきゃ意味ねえだろ!」


最初の頃は、あの鬼道が声を荒げるのが珍しくて、面白かったのだけれど。
二人が顔を合わせれば喧嘩の毎日で、ちっとも面白くない。
むしろ鬼道の機嫌が悪いと練習メニューがきついし、不動には怒鳴られるしで八つ当たりもほどほどにしてほしい。
何よりも、勘弁してほしいことが一つ。


「なあ、半田はどう思う?」


やっぱりな、と思いながら曖昧にからからと笑って誤魔化す。
ここだけは大人しくなって二人でじっとこちらを見つめてくる。仲がいいんだか悪いんだか分からない。
顔が怖い、すごく怖い。そして怖いのは顔だけではない。

向かいからはずごごと松野が飲み物を啜る音が聞こえる。松野が頼むのはいつもメロンソーダだ。

正直に言ってしまうと、どちらでもよかった。というかどうでもいい。
戦術の良し悪しなんかはあんまり考えたことがないしどちらを選んだとしても、動けば疲れるのは変わりがない。
そしてなにより、今言い争っていた内容なんて、たった一人の位置やら動きやらでああだこうだ。
そんなもん知るか!!!と半田は叫びたかった。
もちろん、そんなことは(後が恐ろしいので)できない。
半田が誤魔化しているうちに、二人はまた、議論を始めていた。
はあ、この二人といるとすごく落ち着かない。
決して一人一人が嫌いなわけじゃない。鬼道も不動もいいやつだし。
なぜ揃うとこんなにめんどくさいんだろうと思う。
雷門中の七不思議にカウントしてもいいのではないだろうか。


「ねえ半田」
「なに?」
「なんで僕は連れて来られたのかなあ?なに、道連れ?ねえ半田くん、これは罰ゲーム?」
「悪いとは思ってる」


松野に睨まれてうう、と唸る。
でもなんだかんだで付き合ってくれているのだから松野は普段があれなだけに意外とお人好しだと半田は思う。


「こら、ストローを噛むな」
「は?別にいいじゃん」
「よくない、行儀が悪いぞ」
「鬼道くんうざい」


あーあ、また始まった。
鬼道のオーラがやばい。めちゃくちゃ怒ってる。松野はあまり動じていない。淡々とポテトを口に運んでいる。
巻き込まれたくない半田は、出来るだけ自分の存在感を消し去ろうと試みる。
今は、影野のことが羨ましくてたまらなかった。


「半田、こいつになんとか言ってくれ。俺の言っていることはおかしくないはずだ」
「半田くんだってストローぐらい噛むよなぁ?」
「え、いや、その…」


不動に肩を組まれて動揺した。目つきが悪いから迫力がある。
二人は一見普段の調子だ。
だがしかし、親しいものから見ればこれ以上ないくらいの恐ろしさである。
怒りというよりはむしろ殺気に近いのではないか。既に視線で殺されそうだ。
頼むから俺を巻き込まないでくれってお願いしてるじゃないか神様仏様マリア様もう今後一切絶対に信じたりなんかしないからな嘘ですごめんなさい誰か助けてお願い。


「ほんと二人って相思相愛だよね」
「あぁ!?」
「だって相手のこと気になって仕方ないんでしょ?」


違うよマックス、俺は救済を望んだんだ。爆弾投下してくれだなんてかけらも思ってない。
めちゃくちゃ怖い。特に不動。
後でどんなとばっちりが来るか…


「は、別に、そういうつもりじゃねえ、し…」
「えっ、不動…え?」


不動は語尾がだんだん小さくなって遂には俯いてしまった。
鬼道も、先ほどまでとは打って変わっておろおろしている。
この状況は何だろうか。どす黒い険悪なオーラから一瞬にしてもどかしいピンクなオーラに…。
この事態の元凶を半田はジト目で睨んだ。


「松野くん…?」
「悪いとは思ってる」

まさか途中で逃げたりしないよな?俺たち、友達だもんな?






仲良く喧嘩しな(でも俺を巻き込むのはやめて)


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