・クーデレ×弱気
それが愛しいのです
自室で周囲には誰もいないのをいいことに、不動ははああ、と不動は盛大にため息をついた。
顔を枕に埋めて、ベッドを殴った。
そして不動は決意した。今度こそ鬼道と別れるのだ、と。
「鬼道くん」
「なんだ?」
不動は鬼道の部屋にいた。
ベッドに座る鬼道の隣に不動も腰を下ろした。
黒いVネックに身を包んだ鬼道はいつものユニフォームよりも色っぽく見えた。
「……別れて」
「……は、あ」
俺が黙った時間とおんなじくらいの時間沈黙を保った鬼道は、その後得に意味を持たない音を発した。
鬼道は気が抜けた間抜けな顔をした。珍しい。
鬼道は自分と一緒にいるときも普段も凛としていて、隙をみせることなんてないのに。
でも恋人からの別れ話にしてはあまり驚いていないのは、これが初めてではないからだ。
「今回はどうしたんだ?」
「う…」
すぐに冷静さを取り戻してしまった。
鬼道はもう癖になってしまっているのか、昔影山から教えこまれたとおりに、滅多なことがない限りポーカーフェイスだ。
そこから鬼道の感情は、あまり伝わってこないから、苦手。
不安になる、そう、今日みたいに。
だから、鬼道のことがすごく好きなのに、辛くてしかたないのだ。
「言ってくれないと分からないんだが」
「……ん」
鬼道は不動の頬あたりにかかっている髪の毛を弄り、その流れで不動の頬に手をそえた。
その手からはじんわりと鬼道の体温が伝わってたまらない気持ちにさせられる。
これは非常によろしくない、流されてしまいそうだ。
また、自己嫌悪。
でももう耐えきれないと思った。
自分だけ、せつない気持ちで相手の背中を見つめているのは、もう嫌だ。
「鬼道くんはさ、かっこいいから、もてるだろ」
「……そうなのか?」
僅かに表情が変わって、眉間にシワが。
自分では気付いていないのだろうが、こんな色男、だれもが放っておくわけがない。
財閥の御曹司とくればなおさら。
「鬼道くんはさ、もっといい相手がいるよ。俺、かわいくないし、性格悪いし、取り柄とかないから」
それに、男だし…。
と、そこで言葉を切っておそるおそる鬼道の様子を伺うと、無表情でやっぱり何を考えているか分からない。
「…そうじゃないだろ」
「は?」
「お前は、不安なだけだ」
鬼道突然話しだした。自分の頭がうまく回らず、話についていけない。
ただ混乱して、見透かされていたってことと、そんなわけないという言葉が繰り返している。
「お前が自分に自信がないのは今に始まったことじゃないしな」
「う、」
「まあ今回は、あまりお前に構ってやれなかった俺も悪い」
腕を組んでなにか分かったように頷く鬼道。
こういう、何も言わないで勝手に自分の中だけで完結させてしまうところは鬼道の悪いところだ。
言ってくれなきゃ鬼道の気持ちなんか分からないよ。
自分が愛されるに値するって信じられるほどの自信なんてない。
本当に、本当に俺のこと好きなの?
「俺は伝えるのは苦手なんだが」
そう言うと、鬼道は手を伸ばして不動を抱き寄せた。
突然あたたかい腕に包まれ、驚いた不動は肩を震わせた。
鬼道は肩口に顔をうずめた。吐息がかかってそこだけじわりと生温くなった。
「明王」
「っ!」
「好きだ」
「う…………」
「お前と別れるなんて絶対いやだ」
耳元で甘く囁くその声を聞いたら、涙腺が崩壊して不動は静かに泣きはじめた。
だだっ子みたいなこと言うなよ、鬼道くん
そんな不動を一旦身体を離して見た鬼道は、めったに見られない笑顔を向けた。
優しく、幼い子供をあやすような手つきで頭を撫でた。
涙と一緒に鼻水が出てきて、不動は音を立てて鼻をすすった。
「ああ、あとな」
「ん、」
「不動はかわいいよ」
は、とぽかんとする不動をよそに、鬼道は真面目な顔に戻って、
「それだけじゃない、不動が本当は優しくて気配りができるって知ってるし、案外器用で、料理が上手いし」
ほら、不動のいいところなんか数えきれないぐらいあるぞ。
そう言って鬼道は、また笑った。
自分のことが嫌いでしかたなかった。
サッカーもそこそこ、家は貧乏で素直じゃない、誰も自分を認めてくれない。必要としていない。
そんな自分が、大嫌いで。
それでも、俺のことを、はにかみながら好きだと言ってくれる人がいて、不安になればタイミングを見計らったように捕まえにきて「大丈夫」と言ってくれるんだ。
いつかは、自分のことも好きになれんのかな。
お前のことが、好きになったみたいに。
(ゆっくりでいい、手をつないで、ふたりで自分の愛し方をさがそう)
いつにも増して訳がわからんですね。
ああまとまらない。しかもずれている気がする。書きなおしたい。
自分に自信のないあきおちゃんは、かわいい
|