変態×ツンデレ | ナノ
・変態×ツンデレ

半径5メートル以内に近寄るな







唐突だが俺の話を聞いてほしい。
周りのやつらに言えば惚気話だと苦笑されるが、そんな甘くて綺麗なものではない、決して。


まあ、とりあえず



「……鬼道くん」

「なんだ?不動」

「俺のタオルに顔くっつけてなにしてんの」

「…はっ!ち、違うぞこれは!断じて不動のタオルに残った不動の汗の香りを嗅いでなど」



この変態を、どうにかしてほしい。
鬼道が言い訳(になっていない言い訳)を言い切る前に、遠慮無しに蹴りつけた。
ぐあああっ!とかなんとか叫びながら鬼道は崩れ落ちた。
ふん、自業自得だ。



「不動」

「あ?なんだよ」

「今日も……ツンデレは絶好調だな」



なんだろう、これは。
なぜこいつはどや顔で俺の方を向くんだろう。
それでもイケメンなのだから、さらに苛立ちが加算される。
今度は顔面に拳をたたき込んだ。


「ぐあああっ!」

「よかったな、ゴーグル割れなくて」




と、毎日がこんな感じだ。
こんなのではいつ胃薬に頼らなければいけなくなる日々がくるのか分からない。
早く何か対策を考えなければ。

と、そんなことを考えていた練習も終わって食堂の椅子に座っていると、鬼道が歩み寄ってきた。
不動は何かしてくるのではないかと身構えた。
対する鬼道はいつになく真剣な表情だった。



「不動……あの、頼みがあるんだが」

「あ?ど、どうせろくなことじゃねえだろうけど一応聞いてやるよ」



ついどもってしまう。
何かを期待しているわけではない、断じて。
だって、人が風呂場で服を脱げばこっそり下着を盗もうとするような変態なのだから。



「抱きしめていいか?」

「なっ……!」



不意討ちだった。
舌打ちをして悪態をつく。
普段はヘラヘラしてるくせになんでこういうときだけ格好よく見えるんだ、ずるい。
直接言ってはやらない。なぜならムカつくからである。



「……そういうときは、黙ってやればいいんだよ、ばーか」

「!そうか、それはすまないことをした」



何がすまないのかよく意味が分からない、と思っていたら、ふわりと鬼道の香りに包まれて驚いた。
マントから柔軟剤の匂い。
鬼道の体温は高めで心地よい。
たまには、こういう恋人らしいこともいいなあなんて思っていた。
が、もちろん鬼道はこれだけで終わるほど甘くはなかった。



「きど、」

「すぅ……はあ……」

「……え」



何をされているか認識する前に不動はぞわわっと鳥肌が立った。
鬼道は不動の首筋に顔を埋めて、匂いを嗅いでいるようだった。
だんだん鼻息が荒くなってきて最高に気持ち悪い。



「匂いフェチかああああっ!!」

「うぐあっ!?」



ちょうどいい位置だったので、股間を蹴り上げた。
鬼道はその場に倒れ、うずくまって小刻みに震えていた。
そりゃあそうだ、急所なんだから。
ぶつぶつ鬼道が何か言っている。気になって顔を近付けてみた。



「くっ……匂いフェチだというのは間違っていない……だが!」

「うん?」

「お前の匂いにしか興奮しなぐはあっ」



上から鬼道の頭に拳を下ろすとゴーグルが顔にめり込む嫌な音がした。
その直後、鬼道がぱっと顔を上げた。



「あと!」

「な、なんだよ」

「股間を容赦なく蹴って、使い物にならなくなったら不動は責任をとってくれるのか!」



な、なななななこいつは何を恥ずかしいことを大声で言っているんだ!!
顔が真っ赤になるのは押さえられない。しかたがないから一言、ばかと言い返す。
それに鬼道はふふふと気持ち悪い笑い声を上げた。



「なんだよ」

「かわいいな、と思ってな」

「ばっ……!」

「素直じゃないなあ、不動」



やっぱりツンデレだ、と一人頷く鬼道に変態、と言い放つ。
鬼道は最高にムカつく、最高に格好いい(不本意だが)どや顔で




「お前はそんな変態が、好きなんだろう?」



これだからかなわないんだ。こいつには