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不実なキスでふたり堕ちる



(鬼道side)

ちらり、不動を横目で盗み見る。
最近、不動とふたりきりのときはゴーグルを外すようにしている。なぜならゴーグルを付けていると視界が狭いからだ。
不動はそんな俺に気付かずテレビを真っ直ぐ見つめながらもさもさとテーブルのうえのクッキーをそしゃくしている。
薄桃色の唇にクッキーが挟まれ、さく、と言う音がして不動の口の中へ入り、やわらかそうな頬が動いて。
俺はその一連の動作に釘付けだ。
中でも唇。クッキーの細かな食べカスが付いていてなんとも美味そうだ。
そんなことをしていなくても、不動のその愛らしい唇は甘いのではないかと思う。
そこに限らず不動のいたるところがあまりにも俺を食べろと言っているようで。
例えば、開かれたワイシャツから覗くくっきり浮き出た鎖骨とか、細い指とか、形の良い耳、とか。
そして最近気づいたこと。不動はとてもかわいい。
目は大きいし睫毛は長いし、肌も綺麗でそのうえ小顔だ。その辺の女よりはよっぽどかわいい顔をしている。
そんな顔の不動の、気持ちよくなるところをいじり回したらどんな風な顔をしてどんな声で啼くのか見てみたい。できれば快楽に歪んで理性もなにも無くなってしまった不動が見てみたい。
周囲からはサッカーと勉強以外は興味がなさそうだとか奥手だのヘタレだのと言われるが、高校生男子が考えることなんてそんなものである。


「おい」
「…何だ」
「ジロジロ見んじゃねえよ、気持ち悪ィ」


眉を潜めて不動は鬼道を睨みつけてきた。
生意気なことばかり言うその口を塞いでやりたい。勿論鬼道はそんな衝動で行動してしまわないぐらいには自制がきく。


「…なあ、鬼道くん最近ヘンだ」
「そうなのか?」
「うん。だってさあ、しょっちゅう俺のこと見てるし」


じ、と不動は鬼道の顔を見据えた。
高校に上がってもあまり身長の伸びなかった不動は自然と上目遣いになる。
加えて、普段から下心があって髪や手を触ったり近くによってみたりしていたからだろうか。自然な流れで不動と鬼道の距離はとても近かった。
上体を前に倒すと、ぷちゅ、と唇の音が鳴った。
不動は、拒めなかったのか拒まなかったのか。目はガン開きでなんだか雰囲気がないなあと思ったがそれだけだった。不動は柔らかい。
はあ、と吐いた息は思いのほか熱くて、
そろそろ抑えるのも限界、だ。


「不動、やらせろ」


革張りの黒いソファーにその薄い身体を組み敷いた。







(不動side)

俺は現在へんに緊張している。
別に鬼道の家に来るのは初めてじゃないし、鬼道とこうやって学校や部活以外で顔を合わせるのも珍しいことではない。
これは鬼道が悪いのだ。全面的に。
最近の鬼道の視線は正直怖い。
全身舐め回すような、値踏みするかのような身体にまとわりつく視線。ああ、そういえばこういうふうに品定めしてくるおっさんとかがいたなあ懐かし、というのは置いておいてだ。
たまにふと、あ、食われると思うことがある。
それに今は鬼道の家で、完全に鬼道のテリトリーの中だ。ならば鬼道がやろうと思えばいつだって。
別に男に抱かれるのは嫌じゃないし(慣れてるし)鬼道は案外好みなので構わない、と思っていたからそうなると分かったうえで不動は誘いに乗ったのだった。
そう、鬼道は切れ長の二重のぱっちりした目が綺麗だ。所謂イケメンだ。あと、高校に上がってから背が伸びて、あと筋肉もついて男らしい。こいつに抱かれたくない女がいるだろうか!
あああ焦って馬鹿なことを考えた。これでは俺のほうがむしろ積極的みたいじゃないか。
鬼道がそうしたいのなら仕方ないからやらせてやる、そういうことだ。
さて、そろそろ言ってやろうか。


「おい」
「…何だ」
「ジロジロ見んじゃねえよ、気持ち悪ィ」


鬼道は相変わらずのポーカーフェイス。どうやらばれていないとは思っていないようだった。
まああれだけあからさまな視線を向けられて気にならないのもよっぽどだ。
だが余裕なのが気に入らない。くそ、出会った頃だったらかわいく狼狽えてみせた鬼道はどこへいったのだろうか。
そんな鬼道が見たくて、不自然に思われない程度に身体を近づける。


「…なあ、鬼道くん最近ヘンだ」
「そうなのか?」
「うん。だってさあ、しょっちゅう俺のこと見てるし」


スッと鬼道の目が細められて、あ、ヤベェと思ったらキスされた。
男同士でこんなことを言うのも気持ち悪いが、色気もムードもない。
ギラギラと欲情した瞳はまさに男のそれだった。吐息さえも様になっていた。
畜生、かっこいい。


「不動、やらせろ」


まったくしょうがないな鬼道くんは。















なんだか愛情のなさそうな鬼不