伏せた黒い瞳は、だれよりも澄んでいるのを俺は知っている。 その口はそう簡単には言葉を紡いでくれないことも。 それが物足りないと思ってしまうのは、いけないことなのだろうか 。 だって俺はこんなに豪炎寺が好きなのに。それはおれの、独りよがりのワガママなのだろうか。 なあ豪炎寺、今何考えてる? 「ほう、豪炎寺と喧嘩か、珍しいな」 「面白がるなよ…結構深刻なんだから…」 「ふ、」 鬼道はぼやくおれを尻目に、優雅に笑った。 豪炎寺と鬼道は雰囲気が似ていて、よく二人で話をしている。 二人とも感情を顔に出さないからよくわからないが、楽しんでいるらしい。 そこに、少し嫉妬してしまうのは許して欲しい。 「豪炎寺にさ、『おれのこと本当に好きなのかわかんない』っていったら、すげえ怒ってた」 「…それは流石に怒ると思うぞ」 「だってさあ…わかるだろ?鬼道」 「言葉にしないからといってあいつの思いが軽いというわけではないんだぞ?むしろお前よりも熱烈かもしれん」 「分かってるんだけどさー…」 鬼道の言葉はいちいち正しくて、結構突き刺さる。でも、とかそんな言葉は続けられない。 それでも諦められないのは、俺が頑固だからなんだろうか。 「気持ちは、わからないでもない」 「…ホントに?」 「ああ、豪炎寺は言わなすぎる」 「だよなあ!」 お前は言いすぎだがな、と鬼道は苦笑した。 毎日豪炎寺におれの気持ちを伝えるのは、豪炎寺を好きな気持ちが、何回言っても足りないぐらいに大きいからだ。それこそサッカーと同じくらいに! でも、それはやりすぎだったのだろうか。豪炎寺は、言われるの嫌だったのかな。 俺ははっとした。豪炎寺が考えていることが、全然わからなくて、想像がつかなくて。 「そんなの、本人に聞けばいいことだ」 鬼道は懐かしい悪人顔でニヤリと笑ったのだった。 「よ、遅かったな鬼道ちゃん」 「すまんな不動」 「…!」 豪炎寺と不動は、学校の近くのファミレスにいた。 豪炎寺のほうは一言も発しなかったが、驚いているのが分かった。 不動はそんな豪炎寺を見て、どこか楽しそうだった。 なんだよ不動まで、面白がるなって言ってるだろ。 「豪炎寺クンがさあ、なんにも言わないのは恥ずかしいだけだって」 「だ、だから違うと…!」 「不動、あんまり豪炎寺いじめないでくれよ」 豪炎寺は既に半泣き状態で、顔も真っ赤でかわいかったけど、そうじゃない、今大事なのはそこではない。 唸りながら視線を落としてしまう豪炎寺は、何を考えているのか。 不動や鬼道はいい。何も言わなくてもうっすらとなら相手の気持ちを汲むことができるから。 豪炎寺もきっとそうなのだ。でも俺は違う。 「…俺は、」 「ん?」 「円堂が好きで、ずっと好きで、中学のときから好きで、でも円堂はサッカーにも、チームメイトにも好きって言う。俺に言うのとは違うって分かってるつもりだ。でも、俺はどうしたら、どうしたらいい…」 豪炎寺は焦っているのか分からないがでてくる言葉は分かりにくくて、一つ一つがうまく繋がらない。声なんかあんなに震えて。 でも、豪炎寺がこんなに饒舌なのは初めてで、円堂は目を丸くした。 たまらなくなった円堂は、豪炎寺に飛びついて骨が軋むのではないかとおもうほど抱きしめた。 「円堂、痛い!」 「ごめんな豪炎寺いい〜大好き!」 「っ!」 瞳はキラキラと水の膜が貼っていた。 その言葉を言われた瞬間に豪炎寺は顔を真っ赤にした。 そして答えるように円堂の背中に手を回し、聞こえるか聞こえないかぐらいの声でささやいた。 「俺も、大好きだ」 |