novel | ナノ

ほーら、おいで。
俺は犬かなにかか、と言いたい気持ちを抑えて軽く睨みつけるだけにした。
口論になってしまったら勝てないことは重々承知している。
頭は回るし自分に負けず劣らず口が悪いから。


「ったく、可愛くないな」


偉そうに溜息まで吐いちゃうあたりがむかつく。
男の俺に可愛さを求めるだなんて、まったくどうかしている。ああ、今更だったか。
というか、先輩のほうがよっぽど可愛い顔をしていると思う。
女の子に間違われるのがコンプレックスなくせに髪を伸ばして二つにくくって、そんなの矛盾している。
その髪を後ろから弄り回すのは好きだから別にいいけど。
綺麗な指で髪をくるくる巻き取る癖も、伏せられた瞳が深い色になって、それがすごくきれいで。
って、なに褒めてんだ俺。


「狩屋はさ、かおもそりゃあかわいいけど」
「?」
「わかりやすいからなあ、すぐ顔に出る」
「っ!」
「反応がなーなんかこう…可愛いんだよなー」


真顔でそんなこと、言わないで欲しい。
なんでこう、躊躇いや恥じらいがないのだろうか、この人は。
どんなにみっともない顔をしているんだろうと思うと今にもここから逃げ出したくなる。
どんどん頭の熱があがってきて、このひとに少し可愛い、と言われてあり得ないぐらいに喜んでいるのを知られるのが恥ずかしい。


「ほら、照れてる」
「うっ、うるさい!!」


ニヤニヤといつも俺に意地悪をするときの表情をして、先輩は何故か顔を覗き込んでくる。
顔が近くて、男のくせにいい香りがふわっと漂って、たまらない気持ちにさせられる。
身を引き逃げようとしたところを強い力で捕まえられてしまった。
もう、やだ、恥ずかしい。
こんなにドキドキして。相手はこんなに余裕をかましているのに。こっちはなけなしの余裕を剥ぎ取られてされるがままだというのに。
悔しくて恥ずかしくて、なんで男同士でこんなに甘い雰囲気を出しているのかとか考えたりして。
未だかわいーかわいーと連発している先輩の口に噛み付いて黙らせる。


「いってえ!」
「からかうのが悪いんですよ」
「照れ隠しか。」
「先輩うざいです」


そういうとこも嫌いじゃないけど。
とは言ってやらない。それも見透かされてしまっているのだからまったく、先輩には敵わない。







ツンデレ狩屋とデレデレ霧野のイチャ甘ってすごく蘭マサらしい気がします!
素敵なリクエストありがとうございましたー