novel | ナノ









いつもは天馬や信助たちと一緒に帰るのに、みんな何かしらの用事で先に行ってしまった。
仕方がないから一人で帰ろうとしたところを、先輩に呼び止められた。
「一人なのか?じゃあ一緒に帰らないか」と言って霧野先輩はへらりと笑った。
そして、俺は渋々、先輩と帰ることにした。








「狩屋って手袋しないの」
「へ?」



そういえば今日は手袋をするのを忘れてたいた。
気にしていなかったらそうでもなかったが、言われて意識するようになると、冷たくてジンジンと少しだけ痛かった。
それを先輩のせいにすることにした。
手に息を吹きかけて暖めようと試みるが、それだけではすぐに冷えてしまってあまり意味がない。
隣から笑い声が聞こえたから、視線をやってみると、クスクスと堪えるように笑っている先輩がいた。



「……何笑ってんですか」
「いや、すまん、でも可愛いなと思って」



シラフでそういうことを言わないでほしい。
そうやっていつも不意討ちで心をかき乱すようなことを言うからほら、こんなに心臓がドキドキしてる。
それが、悔しくて睨みつけたら、困ったように眉を下げた。頬は相変わらず弛みっぱなしで半笑いだったが。
眉を寄せて笑う先輩の笑顔が格好良くて好きだ、なんて絶対に言ってやるもんか。



「ちょっと待って」



はぁ!?と疑問の声を上げる前に先輩は小走りに走って脇道に逸れた。
行動が急すぎてついていけない。別に自分が鈍いとかそういうわけではない。決して。
それに着いていくのは、自分から求めているみたいでなんだか癪だったので、でも何をしたいのかは気になったからゆっくり先輩が通った道を辿った。



「ほら、やるよ」
「え…」
「寒いんだろ?」



そう言って先輩は近くにあった自販機で買ってきたであろうはちみつレモンと書かれた缶を1つ俺に差し出した。
奢ってもらうのはわるいから、急いでポケットに入っていた小銭入れを取り出したら、やんわりと止められた。
でも、と続けようとした口は、顔を近付けてきた先輩に塞がれてしまった。



「これでいい」
「―――っ!」



赤くなった頬を隠すためにマフラーを鼻のしたあたりまでずり上げた。
そうしたら、先輩は俺の頭を撫で、帰ろっかと優しく目を細めた。
俺にしては珍しく素直にはい、と小さく返事をした。

そのはちみつレモンは、冷えきった俺にとっては熱くて、蜂蜜の甘さと相まって喉がじいんとした。










キリリク
蘭マサでほのぼの